第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『さてと、何、食うか?』
休日の夕暮れ時。
ラッシュにでも巻き込まれて
隣に並んだ車が知り合いだったりしたら
本当に面倒くさいので
とりあえず、
郊外に向かって車を走らせながら聞いた。
『…んー、烏養さんは何の気分?』
『ご馳走してくれるんだろ?
払うヤツが食べたいもんについてくさ。』
…本当に払わせる気はないけど、
あまりに森島の好みがわからないので
とりあえず、丸投げ。
『じゃ、ワガママ言うよ?』
『なんだよ、こぇーな(笑)
サンダルで入れるとこにしろよ?』
『…女子同士では行かないような店。
食べるものは、なーんでもいい。』
"ムードのいい店"じゃなくてよかった。
いきなりそんなとこ、緊張するし、
それより何より、
そんな店、知らねぇからな(笑)
『わーった。んじゃ、文句、言うなよ?』
車を走らせながら一時間弱。
父親のこと。
初パチの感想。
彼女の職場の話。
商店街のあれこれ。
彼女が飼っている犬。
うちの店に来る高校生。
長期休みで帰省するたび
町内会チームに来る山口や、
今ではチームの頼れるエース、
東峰達、教え子の高校時代の話。
今までほとんど
ちゃんと話したことなかったけど、
案外、話題はあれこれあるもので、
心配していたような
微妙な空気になることはなく…
やがて、
『ここ。』
海のすぐそば。
砂浜の手前の草むらに、車を停める。
『…どこ?』
『あっち。』
煙があがる、掘っ立て小屋。
『…ご飯、食べられるの?』
完全に、疑いの眼差し。
『(笑)悪党でも見るような目だな!
心配すんな、信用しろ!』
ザクザクと砂利を踏みながら進む俺の、
結構後ろからついてくる彼女。
いつでも逃げられるように、とか
考えているらしいのがすぐわかる。
『おい、言っておくけど、この辺じゃ
流しのタクシーなんかいねぇからな!
一人で帰ろうなんて思うなよ?!』
『…』
『信用、ねぇなぁ(笑)
ほら、いい匂い、するだろ?』
潮の香りの向こうに、
煙にのってやって来る磯の香りが届く。
『あ、ほんと!』
くんくん、と鼻を鳴らした彼女が
すぐに嬉しそうな顔をした。
『何屋さん?』
ちょっとした倉庫にしか見えない
掘っ立て小屋のボロい扉を押すと
こぼれてきたのは、
白い煙、裸電球の灯り、
オッサンの笑い声。