第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
そうなんだよなー。
気がついたら、36歳。
ちょっと前までは、36歳とかいったら
もう、相当大人だと思っていたのに、
俺のこの落ち着かなさといったら(笑)
…そもそも落ち着く気がないから、か?
日頃、高校生を相手にしてるから、か?
36にしちゃ若い方だ、と
自分では思ってるけど、
20代前半のアヤと比べたら…
いかん。
何を考えても
"アヤと付き合わない理由"を
自分に言い聞かせてる感じになる。
くっそー、それもこれも全部、
嶋田と滝ノ上が妙なこと言うからだぞ!
タバコを消し、
体育館に戻ろうとした時、
ちょうど前の水道から声がした。
『アヤ、重たくね?』
『俺ら、手伝おうか?』
『だーいじょぶ、これはマネの仕事!
ポタリ、冷た~くしてあるからね。
さ、次の試合に向けて、頑張ろっ。』
カラカラ、と揺れる氷の音。
ドリンクキーパーを抱えて
アヤが先に体育館に戻った気配。
そして、
アヤに声をかけていた若手が二人、
そこで顔でも洗っているのだろう、
ジャバジャバと水の音をたてた後、
話しているのが聞こえた。
『アヤ、かわいいよなぁ。
彼氏、いんのかな?』
『いるだろー、絶対。』
『いいなぁ、あんな彼女。』
『諦めろ、高嶺の花だ(笑)』
『そうかなー?』
『そうだろー。』
『どんな彼氏なんだろな。』
『さぁ、聞いたこともねぇけど、
俺らじゃ勝ち目ないことだけは、
間違いねぇ気がするって(笑)』
遠ざかっていく声を聞きながら、
改めて思った。
マジで、俺とか、有り得ねぇな(苦笑)
…一瞬でも意識した自分が恥ずかしい。
嶋田と滝ノ上には、今度飲むときにでも
たっぷり文句言わせてもらおうじゃねーか。
そうやって、何事もなかったみたいに
体育館に戻った。
二時間半の練習。
いつも通り、ボールをおっかけて
笑って、叫んで、休憩して。
アヤからドリンク受け取って、
アヤに部費を預けて。
何をやっても、
他の部員と全く同じ扱いをされる自分に
ホッとする。
…その反面、
ちょっとだけ、ガッカリしてることは
自分でも気付かないことにした。
チラッ、と目があって
ポッ、とか、されたら、
ちょっとくらい、考えてもいいぞ、
…とか、思ってないからな、全然!