第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
確かに。
最初はいつも通りだった。
一杯目のビールで乾杯。
今日の練習でのあれこれ。
次の試合のメンバーや作戦。
打ち上げはどこでやろうか、とか。
二杯目も、まだビール。
商売の話。
最近遭遇した、面白い客、困った客。
商店街のイベントの話題。
ビール2杯の後は、
ハイボールとか焼酎とか酎ハイとか
それぞれのお気に入りで、
やれ、嫁がどうした、とか
子供が最近、どうだ、とか
親が年取った気がする、とか
そんな家族の話になっていく。
…まぁ、いつもの流れだ。
この話題のときは、俺はいつも
聞き役、というか、突っ込み役。
だから今日も
『お前らも大変だなぁ、
帰っても気が休まらねぇんじゃねーか?』
なーんて冷やかしたりしながら
適当に相づちをうっていた。
こういう話になってきたら、大体いつも、
『そうはいっても、ま、嫁も同じ事、
思ってんだろーし、お互い様だろ。』
『怒られる時間になる前に、帰るか。』
…ってなって、お開きになる。
ところが、
その日は、違っていた。
いつもと話の流れが、なんか、違う。
『なぁ、繋心、』
『ぁん?』
『お前、今、彼女、いないんだろ?』
『いきなりなんだ?
しかも、いない前提で聞くなって(笑)』
『いや、笑い事じゃなくてさ、』
『…なんだよ、あ、もしかして
うちの母ちゃんに、なんか言われたか?
"繋心が結婚するように説得しておくれ~"
とか何とか頼まれたんじゃねーの?』
『違うって。』
『じゃぁ、なんだ?
お前らまさか、親戚のおばちゃんみたいに、
見合いでもススメるつもりか?
ヤだかんな、俺。
結婚とか、マジ、考えれらんねーし。
お前らの家庭の苦労話、聞いた後じゃ、
なおさらだろ。
タイミング、わりぃわ(笑)』
笑い飛ばして、
そして若干のイヤな予感を振り切ろうと
さっさと立ち上がろうとした俺を、
二人が両側から押さえかかって?!
無理矢理、座り直させられる。
『…なーんだよっ?!
お前ら、いつから
俺より母ちゃんの味方になった?え?!』
軽く、キレる俺。
『違うって!おばちゃんじゃねーよ。』
『じゃ、誰だ?まさか武ちゃん?!』
…烏野高校バレー部監督、武ちゃん。
2児の父。結婚してもう10年くらい?
最近じゃすっかり、堂々としてて。
俺や(なぜだ 笑?!)部員の
保護者的存在。