第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
そもそも。
どう考えたって、
俺と彼女が付き合うなんて
想像もしていなかった、ホントに。
年齢も、一回り以上離れてるし。
結構、かわいいし。
性格も、明るくて元気で、
マネージャーとして申し分ない気配りと雰囲気。
さらに地元の銀行の窓口勤務だし。
スポーツマンガに出てくる
"憧れのマネージャー"の
テッパン要素が満載の女の子。
(そうだ、俺に言わせれば、"女の子"だ。
教え子と変わらない歳だぞ?)
顔馴染みの面々ばかりのバレーチーム
"商店街チーム"の若手の中で、
彼女のことを気にしてるヤツも
明らかにいる。それも一人二人じゃない。
彼女自身、
それを知らないわけではないはずで、
それでもみんなのバランスを崩すことなく
立派にマネージャーを務められるのは
自分に気があると気付いても、
それを気にしないで接することが出来る
余裕…というか、
つまり、
モテることに慣れてるから、だろう。
な?
どう考えたって、
俺と付き合う必要が、ない。
そう思っていたから、
本当に、『マネージャー』としてしか
存在を考えたことがなかった。
練習や試合に関する頼み事をするのは
マネージャーだから当たり前だし、
そうやって何かしてもらったら、
当たり前にお礼も言う。
ごく普通に
冗談も冷やかしも言えるような
ただのチームメイト。
(彼女にしてみれば俺の冗談は
親父ギャグかもしれないけど。)
チームの飲み会の時は、
俺は、
オッサンチームに座り込んで
ダラダラグダグダ飲んでる。
若者チームがどんな話題で
盛り上がってるのか知らない。
誰と誰がつきあってる…とかいうのも
そんなに興味がねーし。
むしろ、
既婚者チームの中で唯一の独身である分、
自由で気楽にいられることのありがたさを
実感していて、
みんなの『家庭のグチ』を聞くほど
"恋愛結婚でもこーなんなら、俺、
結婚とか、しなくていいかな…"
なんて心の中で思ったり。
だから、
ある日の練習終わりに、
飲み仲間であり
バレー仲間であり
親友でもある、嶋田と滝ノ上から
"おすわりで、飯、食ってこーぜ。"
と誘われたときも、
いつものことだと思ってOKしたし、
いつもみたいに、チームのこと、
烏野高校のこと、商店街のこと、
そんなことをグズグズ話しながら、
のんびり飲むつもりだった。