第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
…そのまま二人で飯を食いながら、
嬉しそうな顔で話す木兎によると
彼女はスポーツドクターを目指してて、
うちの学校のチームドクターのもとに
研修に来ている中の1人らしい。
で、今日の昼、
彼女が先輩に何やら怒られているところを
たまたま木兎が目撃し、
その後彼女が、重そうなファイルを
一人で運ぶハメになっていたところに
『重そうじゃん、俺、手伝うしっ。』
…と声をかけて、
一緒にファイルを運んだのが
あの"データルーム"だったそうだ。
『コタローちゃん、質問、質問。
声かけたのって、心からの親切?
それとも下心込みのナンパ?』
『んー、半々。
なんかさぁ、先輩に怒られてる時、
納得いかない顔してんのに
言い返さないの見てたら、
つい応援したくなる、っーか。
なんかそういうの、気にならね?』
…ならない。
仮になったとしても、
声まではかけない、俺なら、ね。
でも木兎は、そういうヤツだ。
自分の心のアンテナにひっかかったことは
どうしてもスルーできない。
自分の好奇心が最優先。
相手にどう思われるかは、二の次。
…それがいいか悪いかは別として
木兎の魅力のひとつに違いない。
『で、そこでナンパしたんだ。』
『んー、ナンパってかさぁ、
俺と付き合ったら、
きっと楽しいぜ、元気出るぜって。』
へぇ。
『デートしようぜ、じゃなくて?
いきなり、付き合おうって?
だって彼女、
コタローちゃんの好きなタイプとは
ちょっと違うじゃん?』
木兎が好きなのは、
ノリがよくて明るくて元気な…
そう、木兎自身みたいなタイプ。
『んなこと言ったって、』
唐揚げにかぶりつきながら
答える木兎…うまそうに食うなぁ…
『ワクワクしちゃったんだから
しょーがねーだろ?しかも、医者!』
…ワクワクの意味を、聞いてみる。
『ワクワク?』
『今まで、
あんな賢そうでクールな女と
つきあったことねーしさ、
しかも俺っ、
"お医者さんごっこ"憧れてたんだよねっ。
"診察しまーす"って言いながら
1枚づつ脱がせてさ、
そんで、おっぱい、触診して
最後は俺のぶっといお注射を…♥』
『コタローちゃん、声がデカい!』
唐揚げを3つ、
木兎の口に押し込んで黙らせる。
『それは
コタローちゃんがお医者さん役の時っ。
彼女が医者だったら、逆になっちゃうしっ!』