第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『あぁっ、そうかぁ…』
残念そうに天を仰ぐ木兎。
『でもさ、
綾ちゃんがヒニョーキカの医者役なら…』
『ヒニョーキカ…泌尿器科?』
『そうそうっ、そしたら
お医者さんごっこ、成り立つ?』
そんなことはどうでもよくて(笑)
『彼女、綾っていうんだ。』
『らしい。森島 綾。』
『…で、フラれたんだ、綾ちゃんに。』
『軽く、な。忙しいんだって。』
『それ、フラれてる?
今日、たまたま忙しかったんじゃないの?』
『いや、ずーっと忙しいってさ。』
『(笑)確かに、フラれたっぽいね。』
『だろ?』
…その直後だったから、
今日はあんなに調子悪かったのか。
『な、及川、どーしたらいいと思う?』
考える。
これから、週末ごとに試合がある。
俺がセッターとしてやるべきことは
うちのエーススパイカーの調子を
ベストコンディションにもっていくこと。
『俺、思うんだけどさ
コタローちゃんは、やっぱ、
バレーしてる時が一番カッコいいじゃん?』
『それ、昔からよく言われる。』
『だろ?だったら、
試合、見に来てもらえば?』
木兎の目が、キラキラし始める。
『そりゃ、綾ちゃん来てくれたら、
俺、チョー 決めるっ。惚れさせる!』
だよな。
彼女に応援に来てもらうのが一番だよな…
『よし、コタローちゃん、
この及川さんに任せなっ。
大事な相棒のために、
俺が一肌、脱いであげるよ。』
『マジ?!』
『コタローちゃんが輝かないと
俺の人生設計も狂っちゃうからさ。
とりあえず、試合、見に来てもらお。
俺、声かけるわ。』
『頼れるっ!さすが及川王子!!
でも、俺より先に、手ぇ、出すなよ?』
『信用ないなぁ(笑)
そんなことしたら、ますます
コタローちゃん、しょぼくれちゃうじゃん。
それじゃ、本末転倒だから。
そもそも俺、クール女子とか、面倒だし。』
ホントに、そう思ってる。
ホントに、そう思ってた。
そして、木兎だってそうだと思ってた。
何回か試合見に来てもらって、
ま、ちょっと飯でも一緒に行かせれば、
ノリの違いとかできっと
木兎もすぐ、
"自分のタイプじゃない"って
気付くだろう…と。