第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
…目に浮かぶようだ、と思った。
『男の人にもらったってことは、
彼氏には内緒だけどね。』
…って、
きっと、唇に人差し指をあてて
小さな声で、笑いながら言ったはず。
指も、唇も、声も、笑顔も、
全部が、懐かしい。
懐かしい、けど、もう、
それ以上でもそれ以下でもない。
木兎にとっては、どうなんだろ?
『んで、コタローちゃんはどーすんの?
また綾ちゃんにアプローチする?』
『いや、』
木兎も、懐かしそうな顔をしてる。
『もう綾には"一番"がいるんだから
俺らが近くにいる必要、ないだろ。』
『…いやにあっさり引き下がるんだね。
今日の再会に、意味はなかったってこと?』
『違う違う。
ずっと気になってた羽のこと言えたし、
綾がちゃんと次に進んでること
確認できたし、それで充分。
これでスッキリ、みんな次に進めるだろ?』
『いいんだ?』
『いいに決まってんじゃん!
だって俺らと綾は、
もう、一生、仲間なんだからさ。
会っても、会わなくても、変わんねぇよ。』
あんなに好きだと思っていたのに、
いつの間にか、過去になってる。
木兎と綾ちゃんの別れも
俺と綾ちゃんのさよならも
あんなに辛かったはずなのに、
ちゃんと傷が塞がったのは、
きっとそれぞれ、
現実から逃げずに
自分で決めたことだから。
…あんな想い、何度もはゴメンだけどね。
木兎も俺も、
それぞれに考えたり思い出したりしてて
ちょっと静かになったタイミングで
聞こえてきたのは、
『ちょっと!オイカワ、いる?!』
…通りにまで響く、恐ろしい声。
『あ、オイカワ、また呼び出しか(笑)』
『ヤバッ、うるさいの、来た…』
いつもながら、遠いのに、よく響く声!
『…なぁオイカワ、
いっそあの彼女とつきあえば?
美人だし、面倒見もいいし。』
『…手近過ぎだって(笑)
世界は広いんだからさ、
もうちょっと、運命の人、探させて~。』
『世界?!
そりゃ一大プロジェクトだな!
頑張れよ、としか言えねぇわ(笑)
あー、とばっちり食らう前に、
俺は退散するか。んじゃな!』
笑いながら
ヒョコヒョコ逃げてく木兎にかわって、
声の主が俺の前に立ちふさがる。