第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『いやいや、そんなことより
コタローちゃん、脚、どうだった? 』
さっきの練習で脚に違和感を感じたと、
木兎は練習の後、病院に行っていた。
ひょこひょこ歩いてるけど
外から見る限り特別な処置をされた
形跡がないところを見ると、
おおごとではなかったのだろう。
『ん、2、3日、おとなしくとけ、って。
あー、練習してぇっっっ!』
おかしくて笑ってしまう。
本当に、バレーが大好きなんだよな。
『それよりさ、』
木兎の顔が、得意気に輝く。
『病院で、綾に会った。』
…久しぶりに聞く名前。
『へぇ…』
結局、綾ちゃんの合格祝いは
実現することのないまま、俺達は
それぞれの道を歩き出してしまった。
俺は、あの日以来、
一切、連絡はとっていないし、
木兎も、社会人になってからは
ほとんど縁はなかったはずだ。
…それぞれの道が決まったら
プッツリと会わなくなる、って。
迷いの多い大学生のあの時期、
将来の覚悟を決めるためだけに
俺達は繋がっていたんだ、と
改めて思わされる。
『何で?』
『ちょうど研修で来てたんだって。
つい話が弾んでさぁ。廊下で立ち話だけど。』
『…元気だった?』
『おぉ、かっちょいい女医さんだった。
あ、今、彼氏、いるんだって。』
そうか。
綾ちゃん、ちゃんと、進んでるんだな。
っていうか。
『コタローちゃん、廊下の立ち話で、
そんなことまで聞いちゃう?!』
『だって、気になるじゃん。
もしまだ俺のこと好きだったら、
今なら俺、フリーだけど、って
言おうと思ったんだけどなぁ(笑)』
『…幸せそうだった?』
『さすがにデレデレはしなかったけど。
相手、医者だって。』
『そっかぁ。』
…あの日話した"普通の幸せ"。
手に入れられる相手、見つけたんだね。
『俺らのことも
よくニュースとかで見るって。
応援してるって言ってた。
…んで、俺、ずーっと気になってたことも
やっと今日、白状できたっ。』
『白状?何?』
『羽のネックレス。
選んだのはオイカワって、バラした。』
『今さら?』
『ずっと気になってたから。
そしたら綾、
なんとなくそんな気がしてた、って。
今でもお守りがわりに持ってるんだと。
…彼氏には内緒だけど、って笑ってた。』