第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『ねぇ及川、練習以外の時間を全部、
女遊びにあてるの、やめてくんない?』
長い髪をうしろでキレイにまとめ、
キリッとしたメガネをかけて、
厳しい表情の彼女を見てたら、
ふと、思った。
…そういえば綾ちゃんも、
最初に会った時は
堅物で近寄りがたいイメージだったな。
木兎の代わりに声をかけに行った時、
『名前で呼ばれる間柄でしたっけ?』
って、冷たく言われたのが懐かしい。…
久しぶりに名前を聞いたからか、
あの頃の綾ちゃんの姿が
目の前でプリプリ怒ってる彼女に重なる。
…でも、こっちの方が、100倍、怖い(笑)
『バレー選手のイメージを
損なうようなことされちゃ困るんだけど。』
『まぁまぁ、怖い顔しないで。
せっかくの美人が、台無しだよ!』
彼女は、全日本の広報担当。
俺の"運命の人探し"を
"女遊び"だといつも文句を言ってくる。
『私の仕事は、全日本のイメージアップ!
スキャンダルの処理なんかしないからっ。』
…女で、俺にここまでハッキリ言う人は
なかなかいない。
男だったら顔面パンチされそうな勢いだ。
ぁ、そうか、この男前な性格、
誰かに似てると思ったら、岩ちゃん(笑)
肩をすくめて説教を聞いてたけれど、
今日はなんとなく、居心地悪くはなくて。
大好きだった綾ちゃんと、
今でも大事な仲間の岩ちゃんに
どこか似てる、と思ったからだろうか。
…一回くらい、口説いてみっか…
このとき、俺はまだ
目の前にいる彼女こそが、
探していた"たった一人"だなんて
知るはずもなかったのだけれど。
出会いには、1つづつに意味がある。
失ったものがあるから、強くなれる。
もう、
会うことはないかもしれないけれど…
綾ちゃん、
太陽の眩しさも星屑の煌めきも
どっちも"光"には、かわりないから、
ちゃんと、
"自分の輝き"で生きていこうね。
俺?
俺はもちろん、
どこからでも見える
眩しい"1等星"を目指すし、
俺の隣だからこそ輝ける
"一番大事"を見つけるよ。
大丈夫。
もう俺のことは心配、いらない。
なんてったって俺は、
"及川 徹"だから、ねっ!!