第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
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『及川さん、また会ってくれますか?』
『君と僕とが運命の人なら、
きっとドラマティックな再会が
僕たちを結びつけてくれるはずだよ。』
『"運命の人"…ステキ💖』
『運命の人、ならね…
だから、それまでは会わないでおこう。
人生は、ドラマティックじゃないと。
そう思わない?』
『…思う♥』
『じゃあ、
その日がくるまで、さよなら、ハニー。
君の後ろ姿、覚えておきたいから
僕に見送らせて。
…振り向かずに、行くんだよ。』
『うん、振り向かない💓』
バカみたいに素直に
真っ直ぐ歩いていく女の子の後ろ姿を
退屈な思いで(それでも一応、義理堅く)
見送ってると、後ろから声がした。
『おぅおぅ、やってんなぁ!
まぁよく、あんな歯の浮くような
ペロッペロなセリフ、言えるもんだ。
やっぱオイカワ、天才的な女タラシ!』
辛辣な言葉も嫌味に聞こえない、
明るくてのびのびした声。
『あれ、コタローちゃん、お帰り。』
『さっきのは?
えらい純粋そうな女の子…ナンパにしちゃ、
オイカワのタイプとはちょっと違うんじゃね?』
『ちょっとどころか、全然違う。
どっかのお偉いさんの娘なんだって。
だからあんなに丁寧に、見送りまでして
お帰り頂いたんだよ。俺って、紳士~。』
『(笑)マメというか、悪魔というか。』
『しょうがないじゃん。
彼女にはなれないタイプだけど、
ファンではいてほしいからさぁ。
これでも、嫌われないように努力してんの。
人気はプロの大事な価値だからね。』
『…素直じゃねーなっ。
運命の人を探してる、って言えよ!』
『そう簡単に出会えるはずないって
知ってるから、努力しないと!
とりあえず、近場の女の子手当たり次第、
…って、コラー、コタローちゃんっ、
全日本1の人気を誇る及川王子に、
何、言わせんのさ(笑)』
ここは、全日本の合宿所。
大学を卒業して2年。
俺と木兎は、日頃はそれぞれ
Vリーグのチームに所属している、
いわば、ライバル同士。
でも、
こうして全日本に召集された時は
同じコートに立つ仲間として
大学時代とかわることなく
コンビを組んでいる。
そう、
今でも、俺の大事な"相棒"。
…木兎との縁は続いている。
まだまだ、
一緒にやるべきことがあるから。