第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
…どうしよ。
合格祝いって、
なんかプレゼントとか
あげたほうがいいかな?
合格祝いだったら、
俺と木兎がご馳走してあげなきゃ。
急にフレンチとかだとよそよそしい?
馴染みの居酒屋じゃ、普通すぎる?
…ことあるごとに
そんなことを考えていた、ということは
なんだかんだと言っても結局、俺だって
本当は綾ちゃんに
会いたかったのかもしれない。
だけど、
木兎から、なかなか誘いの連絡はなく。
ついに気になりすぎて
俺から木兎に聞いてしまった。
『ね、コタローちゃん、
綾ちゃんの合格祝い、いつになりそう?』
『んー、なかなかむこうとこっちの
スケジュールあわなくてさぁ、
もちっと、待ってて!』
『わかった。任せっぱなしでごめん。』
そんなやりとりを
二回ほどしただろうか。
…時間があわないのには
こっちも理由があった。
俺と木兎は、卒業。
木兎はヨントリーに、
俺はマローズに入るために、
引っ越し、合宿、研修、そんなことで
それぞれ目が回るほど忙しく…
結局、
"綾ちゃん合格祝賀会"は実現しないまま、
俺たちは、旅立ちの日を迎えた。
…俺も、もう、わかる。
大学時代は、会おうと思ってないのに
バッタリ会って飯、食ったり、
ちょっと立ち寄って試合見たり、
呼び出せばすぐに会えたりしてた。
あれは、暇だったから、じゃない。
その1回1回に、
(何か自分ではわからないけど)
会うべき理由があったから会えたんだ。
今、これほど
『会おうよ』と話し合っても会えない、
…ということは、
もう、今は
会うべきタイミングではない、ということ。
木兎がこの間、言ってた言葉。
『出会ったヤツみんなと、
一生、つきあうわけじゃない。』
俺たちはあの時、
必要だから出会って、
必要だから悲しんだり苦しんだりして、
きちんと役割を終えたからこそ終わった。
…つまりもう、次に向かう時、ってこと。
終わった恋にも、意味がある。
愛にまで育たなかったことにも。
それがわかったから、
もう、会えなくても大丈夫。
それぞれの場所で
恥ずかしくないように生きることが
出会いと、別れの意味だ、って。
…これだけは、
直接、言いたかったけどさ。
『出会ってくれて、ありがと、綾ちゃん。』