第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『俺、綾ちゃんに一番、感謝してるのは
コタローちゃんと、こうやって真剣に
話し合う機会を作ってくれたことかも。』
…綾ちゃんと出会う前まで
木兎は俺にとって、
バレーの相棒。
一緒にナンパする遊び友達。
だけど仲間と言うよりは
俺の人生のステップアップの為に
利用する存在だと思ってたし、
正直、嫉妬もしてた。
でも、
綾ちゃんを間にするようになってから
自分のこと、木兎のこと、
仲間の存在についてとか、
度々考えるようになって、
自分でも許せなかったダークな自分を
受け入れられるようになった気がする。
弱さを共有できた綾ちゃん。
別々の未来に向かうことを
同じタイミングで決めた綾ちゃん。
…今、この時だからこその、すべて。
『綾ちゃんは
まだ医者になる前だけどさ、
俺を救ってくれた気がする。』
『オイカワが
綾の患者 第一号、ってわけかぁ。
それこそ綾に言ってやったら
喜ぶんじゃねーの?』
『…でも、もう会わないから。』
『そんなん、決めつけんなよ。
生きてるんだからさ、
その気になればいつでも会えるじゃん。』
…あぁ、そうだ。この響き。
1度、聞いてみようと思ってた。
『コタローちゃん、よくそれ言うよね、
"生きてるんだから"ってヤツ。
…なんか、座右の銘、みたいな感じ?』
『いや、別に。一般論、一般論。
…あ、オイカワ、コーヒー、俺の分も!』
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木兎が
小さい頃に双子の兄を亡くしたことを
俺が知ったのは、それから何年か後。
木兎の結婚式で
家族席に置いてあった
木兎にそっくりな
男の子の遺影を見た時だった。
その時、赤葦君がそっと教えてくれた。
『人を泣かせないことと、
お兄さんの分まで2倍、
人生を楽しむ、ってのが
木兎さんのモットーなんです。』
…何でも持ってる、と思っていた木兎は、
人より早く、大切なものを失っていて、
その分、
本気で全力で生きてるんだと知ったら、
それまで疑問だったことが
全て、納得できた。
…それにしても、木兎の結婚相手が
綾ちゃんとは正反対の
陸上選手だったのには笑った。
ストライクゾーン、広すぎだろっ(笑)