第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『コタローちゃん、ランニング帰り?』
『おぅ!いつもと違う道走んのが楽しくて、
ついつい多目に走っちまった~。』
一人でランニングに出てたらしい。
『あー、暑いし腹減った!
な、すぐシャワー、浴びてくっから、
朝メシ食いながら話そうぜ!!』
いつものように返事も聞かず、
木兎は去っていく。
…エレベーターを待ちきれないようで、
階段を駈け上がりながら。
『昨日、あのあと二人で飲んだけど…』
木兎の背中を目で追いながら、
岩ちゃんが言う。
『…あいつのそばにいれば、
お前、心配いらねーな。』
『…そうかな?』
『あぁ。"元相棒"が言うんだから間違いねぇ。
逆にお前、ボクトに離されすぎんなよ。』
『わかってる。
確かに一時期、俺の方が遅れてたけど…
もう、引け目感じるパーツ、ないから。
見てな。すぐ、追い付くよ。』
『わかってんならいい。…やっぱお前、
…まぁ、いいや。』
『なに?!
途中で止めるとか、気持ち悪いじゃん。
いいからハッキリ言いなよ!』
『…やっぱお前は、
女とバレーは、両立出来ねぇな。
当分、本気の恋愛は諦めて
うんこ野郎でいた方がいい、と思って。』
『…ねぇ、岩ちゃん、』
『ぁん?』
『岩ちゃんが女だったらよかったのに。』
『はあっ?!』
『岩ちゃんみたいに厳しくて怖くて、
俺のダメダメなところも、
スゲーところも全部知ってて、
俺を特別扱いしないのに
特別な気分にしてくれて、
俺が気を使わなくていいのに
居心地がいい人、
どっかにいないかなぁ。』
『(笑)このワガママ野郎、
都合のいいことばっか望みやがって。
…でも、いるんだろな、どっかに。』
『どこに?』
『んなこと、知るか。自分で探せ。
…でも、今はまず、上を目指せよ。』
『わかってるって。
サイコーの夢、見せてあげるから。
あとちょっとだけ、待ってなよ。』
『あぁ…ふわぁ…』
岩ちゃんは、大きくなアクビをした。
『…そろそろ帰るわ。』
『え?朝メシは?』
『新幹線の中でなんか食う。
昼には向こうに戻らねぇと。』
…岩ちゃんには岩ちゃんの
俺の知らない暮らしがあるから、
引き留めるわけにはいかないし、
もう、俺も、大丈夫だから。
『わかった。…ねぇ岩ちゃん、』
『あ?気持ちわりいから、
ありがとう、とか言うなよ?』