第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『才能のあるヤツは、
端から見れば羨ましく思えるけど、
能力を発揮出来る場にいること自体、
大変なことだってのは、俺もわかってる。
実際、お前だって、
未だに影山とか宮のこと、
子供みたいにグズグズ悪口言うし、
牛若とかボクトとかみたいなスターには
嫉妬して見苦しいし、』
『岩ちゃんっ、言葉っ!』
…もちろん、俺の抵抗は無視され。
『…才能があるばっかりに
それはそれで大変だってのは確かだろ。
でも、そういうヤツは、その才能で、
他人に夢を見せることが出来んだよ。』
…夢?
『俺ら、
自分の毎日に精一杯で、
大人になるほど、そうそう毎日、
ワクワクすることなんかなくて、
だけど、
"いつかお前がJAPANのユニフォーム着たら"
そうやって考えると、すっげー、誇らしい。
お前がそうやってコートに立つ姿見て
俺ら、テレビの前でワクワクしたいし、
"俺、コイツと友達なんだぜ"って
自慢出来る日を楽しみに待ってんだよ。
…俺らみたいな凡人は、
他人にそんな興奮、与えらんねぇ。
才能あるヤツは、誰かの"夢"になれる
特別な存在なんだ。』
…俺が、みんなの、夢?
思い出す。
ちっちゃい頃、
テレビの前でバレーを見た時の
あの、ワクワクした気持ち。
そのあとよく、岩ちゃんと庭で
"全日本ごっこ"したよな。
そういえば、あれが、
バレーを始めたきっかけだった。
あの経験がなかったら、
俺はもしかしたら、
ただ顔がいいだけの(笑)
とんでもなくろくでもない大人に
なってたかもしれない。
『お前は、そういうことが出来るヤツだ。
だから、
女じゃなくてバレーを選んだんなら、
絶対、テッペン、目指せよ。
しんどいこととか、
ムカつくヤツとか、
いろいろあるのは、しょうがねぇ。
目立つヤツラの宿命だ。
足枷は全部、自分の力でぶったぎって、
足を引っ張るヤツらの
手の届かない所まで行って、光れ。』
『そんなカッコいいコト…出来るかな?』
『出来るかな、じゃなくて
やる、んだよ。
…ホラ、最高のサンプルが、
すぐそばにいるじゃねぇか。』
ホテルの正面玄関の自動ドアが開いた。
流れ込んでくる、外の光と空気と、
その場を一気に明るくする、あの声。
『ん!二人揃って楽しい話?
なんだよー、俺も入れてっ!』
…木兎。