第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『岩ちゃん、おは。』
『…ぉぅ。』
ほとんど同時にロビーに到着したから
俺から声をかけた。
岩ちゃんも、スッキリした顔をしてる。
『二日酔いじゃないんだ?』
『そんな遅くまで飲んでねぇからな。』
岩ちゃんは、チラッとロビーを見回すと、
小さな声で言った。
『…彼女は?』
『…あれから話し合って、別れた。
…ん?つきあってないんだから、
別れた、って言わないのかな?
とにかく、もう、会わないよ。』
『ならその顔は、最後に朝まで、
お互いを堪能し尽くして寝不足の顔か?』
『堪能、って(苦笑)
岩ちゃんいつの間に、
そんなエロいキャラになったのさ?
…キスもしないで別れたよ。』
『ウソつけ。じゃ、その顔、なんだ?
まさか泣いたまま寝た、とか
女々しいこと、言わねぇだろな?』
『…女々しくて、悪かったね。
しょうがないじゃん、今まで、
失恋なんてしたことないんだから。』
悪口が岩ちゃんらしくて心地いい…
って、俺、Mか?(笑)
『…こっちこそ悪かったな。
俺が来たばっかりに…』
『いや、
いずれハッキリさせないと
いけないことだったんだよ。』
『でも、俺は昨日も言ったけど、』
壁にもたれかかって
腕組みをしたまま話す岩ちゃん。
…会わない間に、きっと岩ちゃんにも
俺の知らない恋愛や破局があったはず。
『お前がバレーより大事にしたい女が
出来たとしたら、反対はしねぇよ。
バレーは、一生、出来るもんじゃねぇ。
辞めてからのお前の人生が心配だ。』
『…やっぱ岩ちゃん、お母ちゃん(笑)』
『うるせぇ、
お前がいつまでもガキだからだろが。
…女、選んでも文句は言わねぇけど、』
『どーせ、ヒモにだけはなるな、とか
言いたいんだろ?わかってるって。』
『違う。そんなことは俺には関係ねぇ。』
…そこ、関係ないんかいっ!!
『女、選ぶのも選択の1つだけど、
…お前は…及川徹は…やっぱり、明らかに
選ばれた人間だってことは、忘れるな。』
…岩ちゃん?
『ずーっと見てきたから、わかる。
お前は明らかに、俺達とは違う。
影山みたいな神がかり的な天才じゃ
ねぇかもしれないけど
それでもやっぱり、お前は、
上にいるべき人間なんだよ。』
…岩ちゃん…
『才能のあるヤツは、』
低い声で
ゆっくり話し始めた岩ちゃんを
今までになく大人に感じた。