第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
一人になってしばらくは、
ボーッとしてた。
綾ちゃん、泣いてるだろうか。
…あ、見送りもしなかったけど、
タクシー、つかまえられたかな?
タクシーの中で
泣いちゃったりしてないだろうか?
どんなに気になっても
もう、どうすることも出来なくて、
ちょっと後悔しかけてまた泣けて、
目をこするとかゆくて
鏡の中の自分は超ブサイクで、
情けなくてまた泣けて、
…涙はやがて止まったんだけど、
鼻が詰まって苦しくて、
しょうがないからまたシャワー浴びて、
でもそれで却ってスッキリした。
ベッドにひっくりかえって
今日のことを思い出してたら、
なんだかもう頭がいっぱいで…
いつの間にか、眠ってたらしい。
ふと目が覚めてカーテンを開くと、
外はもううっすら明るい。
…朝、六時半。
ちゃんと、朝が来た。
今日が晴れててよかった。
太陽を見て、木兎を思い出す。
…早く、追い付かないとな。
あ、そういえば、もう一人。
スマホを取り出して、LINEを開く。
"岩ちゃん、おはよ。
起きたら、電話ちょーだい。"
送信すると、瞬速で返信。
"なんだ?"
…もう、起きてるんだ。
二日酔いで機嫌悪かったらヤだけど、
一応、聞いてみる。
"出発、何時?時間、ない?"
"ある。文章打つの、めんどくせぇ。
用があるなら、部屋行く。"
…もうっ!何、この冷たいレス‼
相変わらず、全然、優しくないっ(笑)
でも、だからこそ、
いつも変わらずにいてくれる
岩ちゃんだからこそ、
ちゃんと話したかった。
"部屋は暴力振るわれそうでイヤだ。
今からロビーで、会える?"
"りょ"
最短のレスを見て、
俺もすぐにシャツを羽織る。
鏡を覗くと、
目が少し、腫れていた。
笑われるかな?
バカにされるだろうか?
まぁ、いいや。岩ちゃんだから。
岩ちゃんに
隠し事なんか出来ないし、
岩ちゃんに
カッコつけたってしょうがない。
鍵を手にとって部屋を出るとき、
無意識に触れたドアノブが
温かいような気がした。
間違いなく、気のせいだ。
でも、そこは、昨日、
綾ちゃんが最後に触れた場所で。
…他の誰でもなく
俺が触れられて、よかった。
これが、俺の、ケリだ。
ドアの向こう側、
"綾ちゃんのいない毎日"に
一歩、踏み出す。