第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『大好き、だった。』
ずっと言えなかった"好き"の言葉。
終わる時に、しかも
過去形でしか伝えられなかったけど。
言えて、よかった。
…小さく聞こえる、
『ありがと』の声。
『私だって…
及川君のことも光太郎君のことも、
ずっーと、大好き。』
平気だった。
木兎の名前と並んでも。
木兎がいたからこその恋だったから。
木兎に並べて、嬉しいくらいだ。
…ハッ、とする。
わかった、木兎のあの言葉。
木兎にはやっぱり勝てない、と
さっき俺が言った時、
『俺ら、一緒じゃん?』と言った意味。
俺も木兎も、綾ちゃんの中で並んでる。
並んでる、ということは、
選べない、ということは、
つまりどっちも
"一番"ではない、ということ。
"2番目以下"は、
きっとたくさんいてもいい。
"たった一人"には、
これから巡り合う。
俺も、
木兎も、
綾ちゃんも。
…その一歩、
今、ここから踏み出してほしくて。
『綾ちゃん、』
俺の腕から
綾ちゃんを開放する。
『…さ、行きな。』
小さなバッグと上着を手に持たせて。
…これで、全て。
キスも、ハグも、もう、しないから。
次の誰かに向かう道。
前に見えるものだけ、
追いかけるんだよ。
『…見ててあげるから。』
綾ちゃんの後ろ姿。
もう、笑顔は見えないけど、
未来に向かうその背中が
道に迷って立ち止まらないように、
俺と木兎が、いつでも明るく照らすよ。
『…及川君…』
『また、いつか。
次は目標を叶えた顔で会いたいから…
もう、振り返っちゃ、ダメだよ。』
何か言いたげな
綾ちゃんの言葉を遮るように
そっと両肩をつかんで、扉に向ける。
それでも振り向きそうになるその背中に
声をかけた。
『ダメだって。一人で行かなきゃ、ね。』
一瞬、立ち止まり、肩を震わせ、
そして、後ろ姿のままコクリと頷いて、
ドアに、手を伸ばす。
…バタン。
背中は、見えなくなった。
『…は、ぁ…』
最後に震えてた、あの肩。
…泣いてたのだろうか。
ふいに、鼻の奥がツンとして、
ツツツ…と涙が溢れた。
やっぱ、
大好き、だったんだな、俺。
…涙、生ぬるいや。
んで、止まんない。
失恋って、
痛いね…