第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『…このまま二人で、どっかいっちゃおうか。』
『…いいね。南の島、とか?』
『もう、バレーも勉強も辞めてさ、』
『ボールも問題集も捨ててね。』
『…いっそ、結婚しちゃう?』
『…及川、綾』
『悪くないだろ?』
『うん。悪くない。』
『結婚式は、二人きりでさ、』
『ハワイあたりでね。』
『…どんなドレス、着たい?』
『シンプルで、真っ白なドレス。』
『ふわふわ?』
『ううん、大人っぽいヤツ。』
『いいねぇ。海をバックに、写真、撮ろ。
…式のあとは、ハネムーン兼ねて
ビーチの見えるコテージに5泊。』
『コテージ!ステキ!』
『初夜は、寝かさないよ。
コテージだから、どんなに声出しても
誰にも聞こえないから。』
『(笑)』
『ゴムもつけないでさ、朝まで。
子供、何人、欲しい?』
『…三人?』
『よーし、一人目はハネムーンベイビーだな。
帰国したら、俺、サラリーマン。
9時から5時まで働いて、土日休み。
綾ちゃん、専業主婦。』
『小学校の保護者バレーボールで
及川君、うますぎて注目されて。』
『いや、もう何年も練習してなくて
すっげーへたっぴになってるかも。』
『サーブも入らない(笑)』
『"噂では、全日本から声がかかるくらい
上手かったらしいけど、
実際は案外、大したことないわねぇ"なんて
陰でコソコソ言われて(笑)』
『"バレーより、愛を…
私を選んでくれたんです、主人は。"
…って、私がちゃんと、説明する。』
『"イヤン、ステキ、及川さんとこの旦那さん、
まるで王子さまみたい!"って
お母さん達にキャーキャー騒がれて、』
『そこはやっぱり、
捨てられないポイントなのね(笑)』
『結局、顔しか、残らないから。』
フフフ。アハハ。
二人で笑って…そして、静寂。
『…いつか誰かと、そんな普通の幸せ、
手に入れられるのかな、
…俺も、綾ちゃんも。』
『今は、想像できないね。』
『綾ちゃんのほかにも、
世界中のどっかにいるのかな、
こんな俺を大事だと思ってくれる人。』
『…きっと、いるよ。
私じゃない誰か、なのが、悔しいけど。
予想もしないでタイミングで、
きっと目の前に現れるんだろうね。』
…私じゃない、誰か。
俺じゃない、誰かが、ね。