第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
木兎は、
頭をポリポリ掻きながら
言った。
『んー、つまり、まとめると、
お前らがどうしたって、
俺は今までと
全然、変わらねぇぜってことで。
頭ワリィから、
簡単な言葉しか思い浮かばねぇけど、
そーいうことだ。』
簡単。
でも、心からの言葉。
『なぁ岩っち、まだオイカワに用ある?』
『いや。』
『じゃ、飲もうぜ!』
『でも、もう行かねーと、新幹線…』
『明日の朝イチでいいじゃん!
着替えがない?
んなもん、理由になんねーよ。
パンツなんか、1日くらい、
裏返して穿きゃいいし。
あ、コンビニにも売ってっか。
おし、俺、マネに
このホテルにあと一部屋とれねーか、
聞いてくるわ。ちょい、待ってて。』
…木兎は有無を言わさずそう言うと、
部屋を出ていった。
そして、残る『もう一人』の存在感。
『…岩ちゃん、
せっかく来てくれたのに、
ダメダメな所しか見せられなくて、
なんか、ゴメン。』
『…いや、むしろ
あまりにも潔いダメさ加減が
かえって気持ちよかった。
花巻や松にも
見せてやりたかったくらいだ。
…俺らの夢を託した男は、
JAPANは到底、無理らしいって
ちゃんと報告しておくから。
もう、頑張んなくていいぞ。』
『…相変わらず、毒舌だね。』
『ところで、おい、あんた、』
急に呼ばれた綾ちゃんが
ビクッとするのがわかる。
…まだ、この無愛想に慣れないらしい。
『…はい?』
『コイツ、ホント、
バレーしか取り柄ねぇんだ。
バレーやめたら
多分、ヒモしか出来ねぇから、
あんたはしっかり医者になって
及川、養ってくれよ。』
『ちょっと、岩ちゃんっ!』
その時、バンっとドアが開いて、
木兎が戻ってきた。
『岩っち、シングル一つ、とれた!
オイカワの支払いにしてあるから、
遠慮せずに泊まってけよ。』
『えーっ、なんで俺?!』
『バーカ、いいじゃん!
岩っち、わざわざチケットとって
しかも新幹線で見に来てくれたのに
ほんの一瞬だけしか
見てもらえなかったんだからさぁ。
…よし、岩っち、行こうぜー!』
『んじゃな。』
体も存在感も大きい二人がいなくなって、
部屋が急に、広く静かに感じられる。
そこに残された、
俺と、綾ちゃん。
しばらく続く沈黙は、
放っておくと、永遠に続きそうで。