第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『…そういや、あんたは何で、ここにいるんだ?』
初対面で、
しかもあの仏頂面で
"あんた"呼ばわりされたら、
たいていの女子は、ビビる。
『ぇ…』
『岩ちゃん、綾ちゃんは
俺の不調に関係ないからっ。』
『じゃ、なんでお前、くすぶってんだよ。』
くすぶってる?
今まで
誰もハッキリそう言わなかったから
俺もあえて言葉にしなかったけど。
フツフツと心が泡立ち始める。
今まで、
ずっと思ってたのに誰にも言えなかった
心の奥底の想いがこぼれるのを
止められなかった。
『…岩ちゃんだって、
今日の試合見てたらわかったよね?
俺ら下の組だって、すっげーヤツが
ごっそりいるんだよ?
その上のJAPANなんて、もう、
コタローちゃんを筆頭に、
人間離れしてるヤツばっか。
…宮城でも一番になれなかった俺なんか、
あそこにいたら、二番手、三番手でも
別におかしくない。
トビオは、ムカつくけどやっぱ、天才。
コタローちゃんだってそうだ。
バレーも人間関係も、
努力じゃ及ばないような
センスと才能、持っててさ。
…人間、平等なんかじゃないんだよ。』
シン…とした一瞬を壊すのは、
やっぱり、木兎。
すっとんきょうな、明るい声。
『そんなん、当たり前じゃね?』
『…コタローちゃん、大した上から目線だね…』
『いやいや、ちがくてさ、
それぞれ持ってるもんが違うなんて
当たり前じゃん?
顔も、生まれた環境もおんなじ双子でも
全く同じ人生は歩けないんだからさ。
持ってるモンの中の
何をどんだけ磨くかは
自分で探して決めんだろ?
それにさぁ、』
木兎は、カラッと言った。
『俺も、一番なんてほとんどないぜ?
東京で一位だってなったことないし、
あかーし達に言わせれば、
スパイカーとしても五本指止まりらしいし、
綾とだって、結局、別れたし。
でも、だから面白い、だろ?
簡単に一番になれるよーなもんに
時間費やすなんて、俺、つまんねー。
やってやってダメでダメで、
口説いて口説いてフラれてフラれて、
たまーに勝てたり仲良くなれたりするから
楽しいんじゃん!』
…返す言葉が、ない。
木兎の本当の"一番"の才能は、
バレーの技でも
人間関係の築き方でもなくて、
失敗も傷付くことも失うことも
恐れず進める、
心の強さ。