第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
バタン、とドアが閉まると、
そこは、密室。
よくあるビジネスホテルの
小さなシングルルームに、
でっかい男が3人と、
居心地悪そうな女が一人。
…誰が最初に喋んだよ。
やっぱ、こういう時こそ、
空気読まない木兎に任せて…
と思ったら、
『あ、あの、あたし、いない方が…』
予想外に、綾ちゃんが
最初に口を開いた。
そ、そうだ。
どんな展開になるとしても、
綾ちゃんには見られたくない…
『…だよね、綾ちゃん、
わざわざ来てくれたのにごめんね、
また連絡す…』
『だぁめだろ。』
木兎?
『綾も、ここにいなきゃダメだろ。』
『なんでだよ、綾ちゃんは関係な…』
ここで初めて、岩ちゃんが口を開いた。
『…誰?』
みじかっ!短いのに、コワッ!!
『…綾ちゃん。えぇと…』
改めて、思う。
…俺と綾ちゃんの間柄って、何だ?
『彼女?』
『…いや、』
『セフレ?』
『ちょっと、岩ちゃん、失礼じゃん!』
『…じゃぁ他に、寝る間柄ってなんだよ。
ナンパ?デリヘルか?』
違うよっ!と言ったとしても
…じゃぁ、何だ?説明、出来ないじゃん…
『ちが…』
『俺の、元カノ。』
あっさりと木兎が答えて
『あぁ、なるほどな。』
あっさりと岩ちゃんが納得する。
…そういうこと、だ。
綾ちゃんは結局、
木兎の元カノ、という説明が
一番しっくりくる。
『…そうだよ。
コタローちゃんの元カノで俺の友達。
それだけだから、帰らせてあげ…』
『綾、ここ、座れよ。』
俺の言葉なんか聞こえないように
木兎は小さなソファを指差し、
綾ちゃんは操り人形みたいに
カタカタと不自然な動きでそこに座る。
俺は、ベッドに腰かけ、
木兎は綾ちゃんの横の
小さなテーブルに腰をのせ、
岩ちゃんは、腕を組んだまま、
俺の真正面…鏡のついたデスクに
腰をのせた。
…どう見ても、
楽しい宴会が始まる雰囲気じゃなくて…
とりあえず、
一番気になることを聞く。
『岩ちゃん、何でここにいんのさ?』
…そして、
あの屈辱的な一日の
終わりを惜しむかのように、
俺の大事な人が一堂に集まって、
長い長い夜が、始まった。