第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『明日は、時間、ねーんだよ。』
…この声。
自分でも
どうやって動いたのかわからないくらい
無意識のうちに鍵を開け、廊下を覗く。
でーん、と
腰に腕をあてて胸を張って堂々と立つ
木兎の向こう側…
廊下の壁にもたれかかって
腕組みしたままこっちを向く、
眉間のシワが懐かしい、
『…岩ちゃん?!』
『…なんだよ。
幽霊でも見たような顔、しやがって。』
ブスッとしたままの返事の声は、
あの頃と変わらず、不機嫌で。
『幽霊じゃないんだね?
ってことは、ナマ 岩ちゃん?!
…ちょっと、コタローちゃん、
どーいうことっ?!』
『どーもこーも、
さっきから言ってんじゃん。
"相棒参上"ってさぁ。』
…今の相棒が、
元 相棒を連れてくる、という
予想外の展開に、頭が真っ白で…
『とにかく、ここじゃ話も出来ねーからさ、
部屋、入っていいよな?』
『…あ、ぅん、』
ドアを開きかけて思い出す。
綾ちゃんが、いるんだった。
これは、木兎に見られたら困る。
『ぃや、ロ、ロビー、行こ。
ここ、散らかってるし、狭いし…』
『ロビーじゃ、
オイカワこそ話しにくいんじゃね?
おーい、綾、いるんだろ?
裸?なら、早く、服、着ろよ。
お前の裸、まだ見たことない男が
ここに一人、いるからさぁ。』
『…ちょ、もう、コタローちゃん、
なんてお下劣なこと…』
ハッ?!
『コタローちゃん、なんで、
ここに綾ちゃんがいるって…』
『わかるだろ~。
俺、バカだけど、鈍感じゃねーからっ。
…おーい、綾、入るぞっ。
服、着たかーっ?!』
『…まだ脱いでないし。』
綾ちゃん、そこ、
わざわざ"まだ"って言う?!
正直かっ?!
『なーんだ、ヤる前だった?
そりゃ、悪かった。ちっと早かったかぁ。』
木兎、そこ、気を遣うとこ?
…いや、遣うなら遣うで
もちょっと早めに遣ってくんないかなっ!
『おい、及川、
ガタガタ言ってねぇでさっさと開けろ。』
岩ちゃん、恐いっ。
相変わらず、恐いしっ。
久しぶりなんだからさっ、
ここはとりあえず、笑顔で再会じゃない?!
…こんな会話、他人に聞かれたら
俺の人格が疑われるじゃん…
『…入って。』
俺は、
信じられないくらい重たく感じながら
部屋のドアを開け放した。