第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
見てみると、
着信が10分前。
LINEは、5分前に、
"及川君、"
この一言だけ。
スマホを握りしめ、
目を閉じて考える。
10分前は
ちょうどこのバスに乗った頃で
俺は着信に気付かなかった。
そこからLINEまでの5分間、
きっと、
連絡するべきかそっとしておくべきか、
もし連絡するなら何て言葉をかけるか、
あれこれ考えてくれて、
やっぱり、
放っておくわけにはいかないと
とりあえず
"及川君、"とだけ呼びかけて、
…きっと今、スマホを手にして、
次にどんな言葉を続けるべきか、
一人で真剣に、考えてくれてる。
綾ちゃんは間違いなく
俺のことを考えてくれてる。
綾ちゃんだけは、
例えあんな不甲斐ない俺の姿を見た後でも
俺のことを笑わないでいてくれる。
そう思ったら、たまらなくて。
"綾ちゃん、"
俺も、LINEに打ち込む。
他に、言葉が浮かばない。
並んだ名前。
すぐに既読がついて、
また、
綾ちゃんの指先が、
俺を呼んでくれる。
"及川君、"
そして、すぐに、もう一言。
"お疲れ様(^-^)"
…うん。
綾ちゃん、俺、疲れた。
何にもしてないのに、クタクタだ。
バレー出来ない方が、疲れるんだ。
自分が悪いってわかってるんだよ。
バレー、大好きなはずなのに、
今、苦しいんだ。
みんな、敵に見えるんだ。
…そんな今の俺の救い。
液晶画面の(^-^)小さな笑顔。
この顔に、会いたい。
"綾ちゃん、今、どこ?"
"試合会場の近くのコンビニ。"
"会いたい。"
"うん。どこでも、すぐ、行く。"
情けないって、
甘えてるって、
わかってるけど。
俺がこれ以上おっこちないように、
そばにいてほしい人は、他にいない。
1時間後に、
宿泊してるホテルの部屋に来てほしい。
そうメッセージしたら、
"わかった。あとでね。"
と返事があって、それでようやく
俺も少し、落ち着いた。
早く。
早く、部屋に戻りたい。
バスを降り、荷物を取り、
ロビーで明日の連絡事項を聞き、
解散したら、
俺は、一目散に部屋に戻った。
誰とも話したくなかったから、
エレベーターも使わず、階段で。
遠かったけど、かまわない。
じっとしていたくなかったから。