第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
4-0。
試合開始から、
多分、まだ10分もたってない。
"ピーっ"
流れが、空気が、歓声が、止まる。
次の瞬間、俺の目に写ったのは、
番号札を掲げてコートの横に立つ、
トビオの姿だった。
…トビオと番号札を共有し、
コートのラインを挟んで立つ、
そのほんの0.何秒かの時間は、
生まれてきて今までの中で一番、
屈辱的な時間だったかもしれない。
何の音も聞こえず、
自分の足元しか見えなくて、
ベンチにもどってからも
コーチが俺に何を言ったのか、
チームメイトの
誰がどんな声をかけてきたのか、
全然、覚えてない。
再び動き始めたコートの中では、
トビオが…あの王様トビオが…
仲間に絶えず声をかけ、
天才的な精度のボールをあげ、
そのボールをきちんと誰かがスパイクし、
牛若や木兎とも互角のラリーを繰り返し、
点数的に勝ちはしなくとも、
充分に追い上げ、くらいつき、
…もし最初の4失点がなければ
もっと面白い展開だったかもしれない…
練習試合だからか
JAPANチームが
ベストメンバー以外も出したこともあって
5セットのうち、
トビオで1セット、
宮で1セットをもぎとって、
内容的には充分、面白い試合だった、
はず。
…俺的には、
ここにいる全員の記憶から消したいほど
面白くない試合だったけど。
長いような短いような時間。
俺はそのうちの
たった10分弱コートに立って4失点。
笑い話にもならないこの展開。
長くて苦痛なミーティングを終え、
コートの撤収の手伝いまでして
(これも下の組ならではの作業。
JAPANのヤツラは取材を受けたら
早々に出ていく。)
体育館を出るとき、
ファンの多くがJAPANを追いかけて
もうここに残っていなかったことは
救いだった。
…誰にも、会いたくない。
小さなバスが、ノロノロと走り出す。
夜だから眩しくもないのに、
俺は、カーテンをひいて目を閉じた。
早く、ホテルに戻りたい。
今日が最終日でよかった。
…ふと、気になる。
綾ちゃんは、来ていたのだろうか。
いっそ、2セット目くらいから来てたなら
俺は足の調子が悪くて
出なかったことにするのに。
ゆっくりと目を開けて
スマホを取り出すと、
不在着信と、LINEのマークが。
…どっちも、
綾ちゃんから、だった。