第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『…ひとりに、しないで。』
きっと、一番言いたかったのは
これなんだな。
『言えなかったんだね。』
『言えなかった。
…でも、それとは、別で…
お願い、及川君、一人にしないで。』
綾ちゃん、それって、
俺、どうやって受け止めたらいい?
『それじゃ、木兎と別れた意味が…』
『もちろん、ずっとじゃなくていい。
今日だけ。今夜だけ。
明日からはちゃんと、一人で頑張る。
だから、お願い。一人にしないで。
一人になったら、あたし、光太郎君に
電話しちゃいそうなんだもん…』
赤葦君に、言われた。
『木兎さんのことは
俺達がフォローしますから、
森島さんを、お願いします。』
あっちはあっちで、
きっと朝までかけて木兎につきあうはずだ。
俺は、綾ちゃんを任されたんだから。
責任もって。理性をもって。
『…んじゃ、カラオケでも、行く?』
『…まさかの失恋ソング特集?』
『傷口に、塩、塗るように(笑)
俺、エダザイルにしよーかな、
♪LOVERS HAGEIN♪とか、どう?』
ベンチから立ち上がって、
綾ちゃんの手を取る。
『ね、あれ歌える?
バッタナンバーの♪君の名字を♪』
『一番だけなら。』
『歌って!私、東野カナコにしよ。』
ハナミズキの並木の下、
二人で次々、鼻歌を歌いながら、歩く。
時々、顔を見合わせて、笑って。
…ごめん、木兎。
ごめん、綾ちゃん。
俺、今、ちょっと、幸せだ。
状況は状況なんだけど、
もう、木兎に気を遣わず、
綾ちゃんと一緒にいられる。
綾ちゃんは今、
俺のことを必要としてくれてる。
岩ちゃん的言葉であらわすなら
"うんこ野郎"な考えだと
わかってはいるけれど。
そんなことを考えながら
夜の堤防を真っ直ぐ歩いていたら、
グイ、と
シャツが何かに引っ掛かって、止まる。
『?』
『ねぇ、及川君、』
シャツは、
引っ掛かったのではなく、
綾ちゃんが引っ張っていた。
『ん?』
『…ここには、カラオケ、ないかな?』
『綾ちゃん、ここは…』
…ラブホテル、だよ?…