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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)



『…はぁ。なんか、すごく、ごめんなさい。』

ひとしきり泣いた綾ちゃんは
そう言いながら
俺の腕の中で下を向いたまま、

『…みっともない所、見せちゃって…』

『そんなこと、ないよ。』

そっと離してあげようとするのに、

『…綾ちゃん?』

俺の腕の中から離れようとしなくて、

『…どした?』

『…あの、ごめんなさい、多分、今、
相当、ヒドイ顔、してる…どーしよ。』

女の子だからね。
そういうとこ、見られたくないね。

『見ないから。こっち、おいで。』

俺より20㎝以上小さな体。
肩を抱けば
俺の胸の中にすっぽり入ってしまうから
顔は見えない。

そのまま隠すように抱え込んで
街灯りとは反対の方へと歩いた。

『もう、大丈夫だよ。』

そっと解放してあげた場所は、
繁華街の喧騒がウソのように
暗くて静かな、小さな川の堤防。

薄ぼんやりとした街灯が照らすのは、
春にやわらかな赤い花を
たくさん咲かせるハナミズキの並木。

だけど今はすっかり濃い緑の葉が茂り、
春の景色を知らない人には
何の木だかさっぱりわからないだろう。

遠すぎる間隔でポツンと立つ街灯より
ずっと明るい…むしろ明るすぎる…自販機で
ペットボトルの水を買って、渡す。
あんだけ泣けば、きっと喉もカラカラ。

『ありがと。ホント、ありがと。』

川に向かって置かれたベンチに
並んで腰を下ろす。

…しばらくは言葉もなく。
やがて、
小さなためいきを1つ、ついた後、
綾ちゃんが言った。

『夢だった、って思うことにする。』

『ん?』

『楽しい夢だったなぁ!
光太郎君や及川君みたいな
いい男に出会えただけでも、
都会の大学に出てきた価値、
充分あったなー、って。』

『…』

『さぁて、夢も醒めたことだし。
"ガリ勉 浪人生"に戻って頑張ろ。』

『…頑張るのは、明日からでいいよ。』

『…』

『一旦ちゃんと、カラッポにしな。』

『カラッポ?』

『コタローちゃんには言えなかった
弱音とか後悔とか、ホントはまだ
いっぱい、あるんじゃない?』

『…』

『一人で頑張るより、
そばで応援してほしい…とか
たまにでいいから会いたい…とか
今日だけは一緒にいて…とか
また落ちたらどうしよう…とか
急にカッコよくさよならなんてズルい…とか。』



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