• テキストサイズ

~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)



まだ、こっちを向かない。

でも、
うつむいていた頭が、
もう一度、天を仰いだ。

浅く繰り返す呼吸に
嗚咽が混じる。

わざと元気そうに話す声は、
鼻声。

『あーぁ、ダメだなぁ、私。
せっかく、光太郎君が
最後まで笑わせてくれたのに。
…光太郎君の優しさ、
いつも、全部、裏切っちゃって。
ほんと、ダメだ。』

空に向かって放り投げた言葉は
きっとそのまま、
綾ちゃん自身に落っこちてきて
心にグサグサ突き刺さる。

考えただけで、俺の胸まで、痛い。


思わず、
後ろから抱き締めた。


『ダメじゃないよ。
ホントはずっと、泣きたかっただろ?
今までよく、泣かずに頑張ったじゃん。

ホントは"別れたくない"って言いたかっただろ?
よく、我慢したじゃん。

だから、自分を責めんの、やめな。』

抱き締めた俺の腕に
ポトンと落ちた涙。

『あ、ごめんね、汚れちゃ…』

『そんなの、いいって!…ちょっと、こっち、』

後ろから抱き締めていた腕をほどいて
道端へと引っ張っていく。

店と店の間に
ちょうど灯りが途切れるすき間。
明るく賑やかな街の中にある、
偽らない夜の姿。

一人分の悲しみを、
…偽りのない心を吐き出すには
ちょうどいい、暗闇。

『綾ちゃん、もう頑張らなくていいから。
いっぱい、泣いて。気が済むまで。』

『…泣き顔、きっと、すごい、ブス…』

俺に顔を見せないように
意地でもこっちを見ない。

『誰も見てないし、』

ごめん。
今だけ。
弱味につけこむみたいで
心苦しいけど。

グッと引き寄せて、
細い身体をギュッと抱き締める。

『これなら、俺も、顔、見えないから。』

背中にまわした手に、力を込めて。



『泣き止むまで、離さない。』



肩が大きく揺れて
力が抜け、

やがて、
声をこらえた嗚咽が聞こえてきた。



やっと俺の腕の中に捕まえた彼女は、
他の男を思って、泣いてる。

…苦しいな。
俺も、木兎も、綾ちゃんも。

それでも、
それぞれの選ぶ道のためには
避けられない苦しみで。


/ 733ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp