第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
直接会うのは、
今夜が久しぶりだったらしい。
『でもそれは、
不合格だった私に気を遣って、とか
会いづらくて避けてた、とかいうより、
私の模試とか光太郎君の合宿とか
なんか、バタバタしてたからで。
電話とかでは話してたんだけどね。』
…それは木兎から聞いた通り。
その間に木兎は俺に
"本当は会いたい"と言っていたし、
綾ちゃんは俺に
"追い付けなくて焦る。"と言ってた。
『そしたら光太郎君から
久しぶりに会おうって連絡あって。
私、焦りは消えてなかったんだけど、
やっぱり会いたかったから、うん、って。
…直接会った方が、自分の気持ち、
確認できそうだな、って思ったし。』
『…うん。それで?
久しぶりに会って、どうだった?』
『会った途端、
自分でもびっくりするくらい、
嬉しくなったんだよね。
焦ったりひがんだり、
悩んだりしてた自分がバカみたいに。
でね、言ったの。
なかなか会えなくてごめんね、
これからは何とかして
もっと時間作るから、会いたいって。』
あぁ、綾ちゃん、
…会いたいって言っちゃったんだ…
『綾から、会わないって言ってほしい』
と話していた木兎。
その綾ちゃんが
会いたい、と言ってしまったら。
会いたい者同士では、
ブレーキがきかないのは間違いなくて。
きっと、両立は、難しい。
だからその瞬間、
木兎は決めたんだな。
…自分から切り出さないと、って。
なんとなくだけど、そう思った。
それからしばらくは、
ヨントリーへの内定祝いの乾杯したり、
お互いの近況報告をしたり、と
普通にしゃべっていたそうだ。
そして、さりげなく
話は本題へとうつり…
『な、綾、今、一番欲しいものって、何?』
『そりゃ、医師免許だよ~。
あとは…自信。
今は完全に出遅れてるけど、
そのうちいつか、
光太郎君にふさわしい彼女になりたい。』
『コノヤロ、かっわいいこと言うなぁ♥
…でも、綾は充分、すごいよ。
人の命に関わる仕事を選ぶって、
すげー勇気だ。俺にはとても無理。
俺は、俺に出来ない仕事を目指す綾を
絶対、誰より応援する。
だから、まずはとにかく、合格目指せ。』
『…もちろん、そのつもり。』
当然、綾ちゃんはそう答える。