第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
そこから木兎は、
力強い言葉を、
すごく優しい声と笑顔で言ったらしい。
『医者はさぁ、弱ってる人の気持ちが
わかんなくちゃいけないだろ?
だから、一回落ちたのは、
却っていい経験だと思って気にすんな。
でも、1年っていう時間、大事だから…
今度は、全力で行けよ。』
『うん。』
『一番欲しいもののために
残り半年、100%の力を使え。』
『…うん…』
『一番欲しいもののために、
同じ位大事なものを、一旦、手離せ。』
…それって…
『ちょっと待って、私、
医者になりたいのと同じくらい、
光太郎君の彼女でもいたい。
そういうの、うざい?』
『ばぁか、ウザいわけねーじゃん。
かわいくてかわいくて、たまんねーよ。
…でも、2つ大事にすんのには
200%の力がいるから
絶対、どっかに、無理が行く。
下手したら、どっちも失う。
そういう後悔、辛いぜ?
いいか、綾、焦るな。
まずは1個を100%の力で狙え。
優先順位考えたら、俺より、勉強。』
『…それは…でも光太郎君だって、
バレーも、私のことも同じくらい大事に
してくれてるのに…』
『俺、スーパーマンだから。』
『ズルい(笑)』
『ズルくない(笑)
俺には、人生を2倍楽しんで、
人の2倍、頑張れる、という
特殊機能が備わってんだ。』
『…やっぱり、ズルい(笑)
私にも、その特殊機能、貸して!』
『いいよ、貸す。ほら。』
綾ちゃんの両手を
木兎の大きな両手が包んで。
『…でもこれ、
大事なものと引き換えじゃなきゃ、
使えない機能でさ。
だから、俺と引き換え、な。
そしたらきっと綾は何倍も頑張れる。
…だって綾は、俺のことを大好きだろ?
その気持ち全部、勉強にまわせたら
合格間違いなしだ、…って。』
そこまで話して、
綾ちゃんは、フッと息をついた。
グラスの残りを一気にあおって。
『…もう一杯、頼もうか?』
『うん。
まだ、もうちょっとかかる話だから…
及川君、時間、大丈夫?』
『朝までOKだってば。』
『そこまでは、かからないかな(笑)』
『じゃ、思う存分、どうぞ。』
おかわりを二つ、頼み、
彼女に話の続きを促す。
…むしろ、聞きたかった。
俺の知らない、木兎のことを。