第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
木兎は俺の問いには答えず、
だけど大きな声で、
『でもさ、お前らがどーなっても、』
ニカッと笑って言った。
『俺とオイカワは、ずーっと相棒だからな!
俺が二日酔いでも、
お前が悩んでても、
明日も明後日も一年後も、
大学でもJAPANでも
いつでもどこでも
最高のトスを頼むぜ!』
そしてふと、
デニムの後ろポケットに手をやって。
『…これ、やる。』
ヒュン、と音をたてて
夜の闇の中、
光の筋を描きながら
俺のもとに届いた、銀色。
『?』
俺の手の中で光るのは、
『?!』
羽のモチーフのキーホルダー。
これ…
『イケてるカップルは、
さりげなくペア、なんだろ?』
カップル、って…
『…コタローちゃん』
俺の気持ち、知ってた?
それとも単なる思い付き?
…言葉が、見つからない。
キーホルダーを投げたときに
木兎のポケットからポロリとこぼれた
ガムの包み紙のようなものを
拾うついでに俺に近づいてきた赤葦君が、
そっと耳打ちしてくる。
『プライベートのフォローは
俺と木葉さんに任せてください。
でも、バレーに関しては
木兎さんはもう、俺らの手の届かない人だから…』
赤葦君の澄んだ黒い瞳が
俺を見つめる。
『コートの中のフォローは、
及川さん、どうかよろしくお願いします。』
カサッ…
赤葦君の手の中に握られた紙が
小さな音をたてる。
俺も思わず、手のひらを握りしめた。
見えない、握手。
元 相棒の赤葦君から
今の相棒である俺に託された、
バレー選手としての木兎を輝かせることへの使命。
『…わかった。』
俺の返事を聞き届けた赤葦君は、
軽く会釈をして
木兎たちの所へ戻っていった。
『じゃあな、また明日。』
手を振って、歩き始めた木兎。
その隣を歩く木葉君。
最後にもう1度、俺に会釈して
少し後ろをついていく赤葦君。
…背中が見えなくなるまで見送る。
もう、誰も振り返らなかった。
すぐそばで支えてくれる仲間がいる木兎を
羨ましいとは思わない。
木兎が自分で作り上げてきた人間関係だ。
俺は、ここで戦うと自分で決めてきた。
遠くにいる仲間に恥ずかしくないように。
とりあえず、今は
"東京の相棒"から託された
俺の役目を果たすこと。
…とはいうものの…
さて、
どーすりゃいいんだ?