第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
木兎は綾ちゃんに
何て言って店を出て来たんだろう?
…考えても、始まらないな…
綾ちゃんは
窓際のさっきと同じ席に座り、
スマホを見ている。
…俺がここにいることには、
気づいてないらしい。
俺もスマホを取り出して
LINEでスタンプを送る。
男二人を従えて恋の格言を言う、
今、ブレイク中の女芸人が
『地球上に何人、男がいると思ってる?』
…と言ってるスタンプ。
(『新しいガム、噛みたくない?』に
しようかと思ったけど、やめた。
"味のしないガム"扱いは、
さすがに木兎に申し訳ない 笑)
送信。
物影から、綾ちゃんを見守る。
スマホを見ていた表情が変わる。
指先で操作して…
ちょっと笑って。
そして、トトトトトン…と
スマホをタッチ。
すぐに、俺のスマホにLINEが。
『35億!』の文字と、
ジャンプしてる女の子のスタンプ。
…泣かせて、あげなくちゃ。
そして、
笑わせて、あげなくちゃ。
落ち込んでる暇は、ない。
1年に1度のチャンスまであと半年。
木兎が綾ちゃんにあげた大切な時間だ。
一晩だけ、痛みに浸らせてあげて、
明日にはまた、目標に向かって
歩き始められるように。
スマホをポケットに入れたとき、
木兎にもらった羽根のキーホルダーが
チャリ、と音をたてた。
木兎、俺、行くよ?
どうなるかも、
どうしたらいいかもわからないけど、
とにかく、綾ちゃんの所へ。
横断歩道を走って渡り、
入り口のドアに映る自分が
余裕のある顔をしていることを確認して
…迷うな、俺。
こんな時こそ、及川スマイル。…
ドアを押した。
『いらっしゃいませ~、何名様ですか?』
声をかけてきた店員に、
『待ち合わせだから大丈夫。
…あの席に、彼女と同じもの、2つ。
急いで持ってきてくれると嬉しいな。』
とドリンクを先に頼み、
綾ちゃんの前に向かった。
明るい声で、言う。
『綾ちゃん、お待たせ。
35億分の1、到着でーす。』
綾ちゃんは、
一瞬、ビックリした顔をしたけどすぐに、
『女に生まれて、よかった♥』
…と答えてくれて、
思わず俺も、笑ってしまう。
思ってたより、元気そうだ。