第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
ふ、と俺たちの会話が途切れて、
3人で窓の外を黙って見守る。
ガラスの向こう、
"史上最強のドストレート単純男子"は
そのとき、
綾ちゃんのオデコを
ツンツン、とつついて
ガシッと右手で握手して
綾ちゃんの手の甲に
そっと一瞬、唇で触れ、
そのまま今度は
空いた左手で
綾ちゃんの右頬を包み、
瞳を見つめて
何か、言葉をかけている。
…あの、キラキラの笑顔で。
綾ちゃんは
同じくらいキラキラの笑顔で
木兎を見つめて何度も頷いて、
そして
二人の全てが
…頬に触れた手も、繋いだ右手も…
フワッ、と離れる。
離れないのは、見つめ会う視線だけ。
…映画のワンシーンのようだった。
木兎…
あんな柔らかな動きが出来るなんて。
いつも
パワフルで勢いがあって全力の
"やる気モード"
もしくは
グズグズでフニャフニャの
"ダメモード"しか見たことない。
でも今、
綾ちゃんに見せているその姿は
柔らかくて
優しさに満ちていて
全てに愛情が溢れている、
特別カッコイイ男、だった。
『…ね、ホントに別れてんの?
これ、むしろプロポーズじゃない?』
俺の問いかけに、
赤葦君も木葉君も答えることなく、
『…出ましょう。』
見ると、
綾ちゃんを残して
木兎が一人、立ち上がったところだった。
『…支払いしてきます。先、出てて下さい。』
本当に、
この瞬間を待っていたと分かる素早さで
赤葦君はすぐに支払いに行き、
木葉君は、荷物を持って立ち上がる。
『…俺の分、』
あわてて財布を取り出そうとすると
背中を押す木葉君が笑いながら言った。
『夜中に呼び出されたんだからさ、
ごちそうされちゃおうぜ。
ここ、木兎持ちってことで、話、ついてるから。』
未だに信じられないけど、
彼らには予定通りだったんだ…
これ、現実?
夢を見ているような気分。
でも、夢にしては、
じっとりとした蒸し暑さや
通りすぎる車の排気ガスの匂いが
リアルすぎて。
俺はこの後、
どうしたらいいというんだろうか。