第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
でも…
少し、戸惑う。
想像していたのとは全然違う。
『どーしていいかわかんなくなったら
電話するから、アドバイスして!』
木兎がそう言っていたから、
もうちょっと、こう…なんというか…
行き詰まった雰囲気の時に
呼び出されるものだと思っていた。
だけど今、
目の前にいる木兎と綾ちゃんは
とても自然に笑いあっている。
『…俺がここに呼ばれる必要、ある?』
『多分もうすぐ、木兎さん、一人で出てきます。
木兎さんのそのあとは自分達が面倒見ますんで…
及川さんは、森島さんをよろしくお願いします。』
『…どーいうことさ?
なんでコタローちゃん、一人で出てくんの?』
『…別れ話、してるからです。』
『は?何言ってんだよ?
あんな楽しそうじゃん。
そもそも別れる理由がないだろ?』
ないだろ?
コタローちゃんは綾ちゃんに
会いたくてたまらなかったんだし、
綾ちゃんはコタローちゃんが
誇らしくてたまらない。
そんな二人が久しぶりに会う夜。
むしろ俺達、邪魔なくらいじゃん。
『木兎さぁ、』
…木葉君の口から聞こえた言葉は
俺の知らない木兎の気持ち、だった。
『ここんとこずっと気にしてたんだ。
自分が綾ちゃんの負担に
なってんじゃないか、って。
今度の国家試験には絶対合格させたい、
そのために勉強に集中させるためには
自分と別れるのが、一番、
やる気が出るんじゃないか、って。』
…めまいがする。
『ちょ、待ってよ。
なんで別れるのが一番、やる気が出んのさ!?
綾ちゃん、
コタローちゃんのこと大好きなんだよ?
フラれたらガッカリして、
勉強どころじゃなくなるじゃん!』
『森島さん、負けず嫌いだそうですね。』
赤葦君は、俺に問いかけるように言う。
…そう、だ。
二人が出会った時、木兎は綾ちゃんの
そこがいい、って言っていた。
先輩に食いつきたいのに、言い返せなくて
悔しそうなところが気になる、って。
『…木兎さんいわく、自分と別れたら、
森島さん、奮起するはず、って。』
もしコタローちゃんと別れたら。
綾ちゃんはきっと
死に物狂いで勉強する。
だって
木兎を失って、
そのうえ不合格、なんて、
何も、残らない。