第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
教えられた店に着いたのは、
赤葦君からの電話を切って
30分ほどたった頃だった。
『気になるとは思うんですけど…
直接、木兎さんのところには
行かないで頂けませんか?
自分、向かいのカフェバーにいますから
とりあえずこっちへお願いします。』
電話で詳しい行き先を聞いた時、
そう言われた。
会ったことない年下に指示されるのは
ちょっと癪に障るのだけど、
赤葦君の話し方は、
落ち着いていて的確で、
でも、暖かみのある丁寧さで。
だから、二人のことは気になるけれど
まずは言われた通り、カフェバーの扉を開けた。
窓際の席からスッと立ち上がったのは
柔らかそうな黒髪と
同じくらい黒く涼やかな瞳の
(俺とは違うタイプの 笑)美少年。
軽く会釈をして席を掌で示す様は
年齢の割にスマートで手慣れていて。
シンプルだけど高そうなシャツを
さらりと着こなしているし、
見るからに賢そうで
上品な気の遣い方からも
育ちの良さが伝わってくる。
『赤葦君、だよね?』
『はい。木兎さんの後輩の赤葦です。
先程は電話で失礼しました。』
『いや、全然。及川です。』
席には、もう一人いた。
切れ長の目と、
金髪に近いくらい明るい色の
サラサラ髪が特徴的。
『木兎がいっつもお騒がせしてます。
俺、木兎とタメの、木葉っす。』
あぁ、この名前も
木兎から何度も聞いたことがある。
派手さはないけど器用でムードメーカーで
チームに絶対欠かせない…
多分、マッキーみたいな感じのヤツ。
初対面でもなんとなく通じるものがあるのは、
バレーという共通項、
そして木兎という共通項があると
わかっているからだろうか。
とりあえず、
グラスでビールを頼んで一息つく。
『…コタローちゃん達は?』
『まだ、店に。』
…"こっち、座る?"と
木葉君が代わってくれた席からは、
通りを挟んだ向かいにあるスペインバルが
植木の間から見える。
大きな窓がまるで額縁のように、
向かい合う二人の姿を
横から切り取っていた。
不思議な気分だ。
木兎と綾ちゃんが
二人きりの時の姿、初めて見る。
(当たり前だけど。
俺、ストーカーじゃねぇし。)
3人で会う時とは違う、
…なんというか、すごく、
"カップル"に見えた。
友達でも
仲間でもない、
そう、どこから見ても恋人同士。
