第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『集合でーす。』
マネージャーの声が聞こえる。
『んじゃ、そーいうわけで。
今夜は俺のために、あけといてっ。』
キラリン、と光る瞳で
ウィンクをしながら片手をあげて
…まるでファンの子に見せるような
さわやかな笑顔で…
木兎は背中を向けて走り出す。
少し遅れてその後ろに続きながら、
自分に言い聞かせた。
大丈夫。
俺の出番なんか、ないない。
コタローちゃん、いつも大げさだから。
明日、どーやって文句、言おうか。
『電話待ってたから、
眠れなかったじゃん!』
『用なしなら用なし、って、
LINEくらい送れないかなっ?!』
『ノロケ聞いてもいいけど、
学食ランチ、おごってよっ!』
…なんてこと、言ってやろう。
きっと明日の俺は、
朝から木兎の顔を見るごとに
そう言ってるに違いない。
だって
木兎はいつも通り、
全力で楽しそうで、
悩みなんか1つもなさそうで、
今日も、ビシバシ決めまくってる。
…ずるいよな。
大騒ぎしてみんなを巻き込んで。
最後は自分が一番、HAPPYな顔するんだ。
でも、
巻き込まれるのもちょっと嬉しくて。
文句言うのも楽しくて。
そんな明日を
簡単に思い浮かべられるほど
いつも通りに練習をして
木兎は
『じゃあな、頼んだぜ、相棒!』
…と、走って体育館を後にした。
『綾ちゃんによろしく!』
後ろ姿にかけた俺の言葉が
聞こえたのか聞こえなかったのかは
わからない。
『…泣かせるなよ。』
これは、つぶやき。
聞こえなくていい。
大事な人を泣かせるようなこと、
木兎なら、しないよな。
その夜は、
気にしないようにしてるつもりでも
ずっとスマホを手離せなくて、
シャワーを浴びてる間も
バスルームのドアをちょっと開けて
音が聞こえるようにしてたし、
LINEに
ニュースや新着情報が届いた音にも
ビクビクしてしまう始末。
信じてないわけじゃ、ないんだけど。
そうやって
スマホにゆるーく縛り付けられて
過ごすのにも慣れてきて、
ちょっと気持ちがそれてきた頃、
呼び出し音が、鳴った。
ちょうど、夜のニュースの
オープニング音楽と同時に。
…誰だよ、こんな時に電話してくんのは。
ビックリするから、やめろよ…
出来るだけ普通に、スマホを手にする。
画面に出ていた名前は、