第5章 予兆の香り
メールが入ってた
夏目から
日和には内緒で出てこいとのこと
俺は静かに自室を後にし、暗くなった屋上へ向かった
「苓たんようこそー♪」
「いつからここはあんたのものになった……」
「まぁまぁ、呼び出したのには意味があるんだ。ちょっと聞いてよ」
ふざけた装いから
途端に声を沈める
違和感
それは感じていた
でもあのときは凜々蝶に関してだけだと思ってた
……凜々蝶だけじゃなかったんだ
「知ってるかわからないけど、日和たんの回りに何かが視えた。たぶん、これは本人もわかってると思う」
「何か?」
「声だけなんだ。その何かは」
「……声」
そんなことは何もいってなかった
声が聞こえると言うのも
何か気配があると言うのも
「具体的な話はわからないけどね。視えたのは白いそれが彼女の回りに居るということ」
「……それが恨んでる相手の可能性は?」
「なくはない。だけどね、そこじゃないんだ。問題は別なんだよ」
「?」
わけがわからない
いつも視えるのはごくわずかのはず
さっきの一瞬で
そんなに量が視えたのか
いつもより悲しそうな
それでも視たものを否定したような顔をした夏目は
ぼやくように呟く
「……彼女はたくさんの妖怪に囲まれてた。大小関係なく……狼も関係ない。ただ、あれはいつもの日和たんの顔じゃなかった」