第5章 予兆の香り
「いやー、あれはびっくりしたー」
「耳が割れるかと思った……」
夕日が暮れ始めた街を苓と歩きながら、先ほどを思い出す
結局
電話を掛けて制止はしたが読まれてしまい
尚且つここに来るだろうとのことで
慰めの会から凜々蝶は逃亡してしまったのだ
私と苓は逃亡した凜々蝶の捜索兼、小太郎君を家に送り届けていた
今はその帰り
「あんなに取り乱すんだね」
「それほど大変なこと書いたんだよ」
「渡狸とかもそんなこと書いてありそう」
「カルタへの愛しか書き込まれてないかと」
「それに一票」
そんな話をしているうちに、雪小路さんとの会話を思い出す
「苓は誰に書いた?」
「自分。ちゃんとしてろよって」
「今でも十分しっかりしてると思うけど……」
それは個人差か
「私は、もう誰も恨まないでって書いたよ。私は私、道具じゃないから」
「…………そう」
「あ、そうだ!皆にシュークリーム買って帰ろう!ついでにカラシ入れてロシアンにして!!」
「最低かよ」
「喜ぶって!皆そういうの好きだから!」
こういう暗い話はするもんじゃない
私は誰も恨んでなんかいない
彼を置いてお気に入りのお菓子屋さんへ足早に掛ける
その時、また声が聞こえた
「……良い香り」
「!」
…………誰も、居ない?
辺りを見ても
そのような人はいない
ただ単に通行人が呟いたのか……?
「どうした?」
「いや………………道どっちだっけって……あは」
「そろそろ覚えてくんないかね」
…………なんだったんだろう