第6章 継続は力なり
黒子野はゆっくり刀を抜いた。
圧倒的な敵の前でも、乱すことはなかった。
「終わりだ!!黒子野!!」
天人の伸縮した刀が当たりそうな瞬間、黒子野は微笑んだ。
「…いいえ、まだです。ボクは影だ」
!
何のつもりだコイツ?!
刀を構えるどころか、まるで 投げるような姿勢をとってる
黒子野は刀を投げた。
天人はそれを難なくスッと避けた。
(正気を失ったか?この状況で“刀”(唯一自分の身を守る手段)を投げ捨てるとは)
墓穴を掘ったな
投げた刀は天人に当たるどころか、かすり傷も負わせず通り過ぎた。
自殺も同然だ
その微笑みも、自分の死の恐怖を紛らわすだけの俺への当てつけだ!
(今度こそ、とどめだ!)
天人は刀を失った黒子野に刀を振り切った。
自分の死を悟った時、剣士は何を思うのか?
それは空だ
死という不条理を受け入れるのに、その心には何も写らず死んでいく
貴様は今何を考えている?
俺はその虚を見るたび、己の勝利と生を実感する!
しかし、黒子野の心は空じゃなかった。
たった一言だけ
“あとは頼みました”
!!
その一瞬が勝負を分けた。
その途端、天人は後ろからの殺気にようやく気付いた。
そこには、刀を失ったはずの高杉が刀を持って目前に迫っていた。
(な、何だと?!刀を持っているはずが…!)
高杉の弾かれた刀は向こうの方に突き刺さったままだった
(!! まさかさっきのは…)
天人は、黒子野の微笑みの理由が分かった。
さっき投げたのは、俺への攻撃じゃなく
・・・・・・・・
後ろのコイツに渡すためのフェイク?!
心を読めるはずの俺が、影が薄いこの者の企みを読み取れなかっただと?
後ろからの殺気に気付けなかったのは、俺がこの者に気を取られていたから。
刀を受け取った高杉は、天人の背後を狙った。
(くっ…!)
「ウオォッ!!」
「オオォォッ!!」
そうだと理解しても、もう遅かった。
高杉の方が頭一つ早かった
ズハァンッ!!
天人は急所の額の部分を斬られ、高杉は頬に掠り傷が付いた。
天人はその場で俯き、戦闘不能になった。
「ハァ…ハァ…」
地面にひれ伏してる天人に対し、高杉は立っていた。
頬には切り傷ができ、血が伝った。