第19章 友が為
「……いや、確かにそうかもね」
「?」
雅はおぶられたまま言う。
「人の気持ちや事情も何も知らないクソガキがビービー五月蝿いから、たまには言うこと聞いてあげないと、ますます鬱陶しさに拍車がかかりそうだからな」
「……聞いておくが、そのガキってのァ、誰のことだ?」
「アンタがよく知っている人物さ。今、私をおぶっている」
「同一人物じゃねェか。てめーはそのガキの手助けがなきゃ、歩くのもやっとの虫の息だったじゃねェか」
「……ああ。アンタにはいつも感謝している」
いつの間にか、山道が段々となだらかになっていた。
そして見覚えのある山道へ入っていく。
高杉はピンとくる。
(ここァ、あん時と同じだ……)
雅が烏共の毒に犯されて、動けなくなった時も、こうして……
「いつも…アンタだったろう」
「?」
「私を…孤独から引っ張り出したのも、本当の意味で松下村塾の門下生になったのも、だからこそ……」
「…何の話だ急に?ガキ扱いしたり大人らしく感謝したり、一体何が言いたいんだ?」
話があやふやで、彼女らしくもない。
多くの仲間が目の前で命を落とす中、銀時を庇いながら戦った疲労のせいで、いつもと調子が違うのかもしれない。
一刻も早く拠点に戻り、少しでも彼女を休ませなければ。
銀時の治療を控えているから尚更だ。
そんなとこを足早で思っていたら、後ろから強い重みがのしかかった。
「!」
ギュッ
雅が高杉の背中にさらに抱きつくように距離を縮めていた。
「お、おい…!」
思わず足を止めてしまい、後ろを振り向くと、雅は背中に顔を伏せていた。
「晋助。一つだけ…約束して欲しい….」
今度はおなごのようにか細い声で、高杉の背中に擦り寄るようにして言う。
「アンタの言う通り、戦で無茶をすることはやめる……だが、アンタも決して…無茶はしないで欲しい」
「!」
雅は顔を上げて、高杉に向けて言い放つ。
「死ぬのは絶対に許さない。私がアンタに願うのは、それだけだ」
その眼差しはどことなく、泣いた後のように涙腺が潤んでいるように見えた。
「……わ、分かった」
高杉はその瞳を前にして、それしか言えなかった。