第5章 人は皆 十人十色
からかわれたように笑われて腹が立つはずなのに、何故か立たなかった。
たかがコイツの珍しい様子目にしただけで、何故か調子が狂った。
(泣き顔もそうだが、何で…)
おどおどしてる俺に、雅は顔をのぞき込むように心配した。
「たかす……晋助」
「!」
名前を呼ばれ、さらに焦りが積もった。
「な、なんでもねェ!それに俺ァクリニックでもねェ!」
反射的に雅から少し離れた。
今の自分の状態を悟られたくなかった。顔を見られたくない。
恐らく今、俺は……
こんなところで2人でいると、さらに調子が狂いそうだ
「もう片づけ終わっただろ?行くぞ」
俺は雅の手をとった。
「?」
「もたもたすんな」
ツンとして雅の手を引いた。
(?)
雅は抵抗もしなく、特に焦りもしないで引っ張られた。
(……何で収まらねェ?)
雅をあえて自分の後ろに来させたのは、顔を見られたくなかったから
もう片方の手で心臓当たりを掴んで、五月蝿い鼓動を何とか抑えようとした
俺は、“この気持ちをどうしたらいい?”と思いながら、頬を赤らめていた
その時握った雅の手は、思ったより小さく、いつも冷たい性格の割にはあたたかかった…
現在
あの時俺は、今と同じような体験をした。
雅の初めて見た表情と同じ、あのツラを見たことで思い出された。
あの時も今も、見た瞬間俺は思った。
それは唐突で決して口には出さねェ、頭の中に浮かんだ言葉。
“可愛い”
確かにアイツは、いつもは無愛想で分からないが、普通の奴と同じくらい表情が豊かであれば…
普通の女みてェに、ああやって笑っていればいいのにな。
俺も、奴のそんなところは見たいと思うことはある。
周りもアイツに気があるからそう思ってるに違いねェ。だが…
(俺は、他の奴らとは違う)
坂本や他の奴らはともかく俺は違う。アイツを
・・・・
そんな風に見てなんかない
俺ァ、ただ…