第5章 人は皆 十人十色
雅が……笑った?
口元が少し緩んでる程度で、分かりづらいが確かに笑った。
すぐ元の顔に戻ったが、はっきり見た。
「似合うと言っても、別に深い理由はないよ。ただそう思っただけ」
雅にとっては、なんとなくみたいなものだった。
「お世辞だと思うならそれでもいい。アンタのことだからガラじゃないと思ってるだろうけど」
「………いや」
雅に顔を見られないよう逸らし、しばらく無言のままになった。
さっきのツラ。つい面白おかしく笑ったような、そんな顔だった。
“桜が似合う”?
確かに俺にはそぐわない言葉だが、それよりも
・・
ツラが目に焼き付いた。
優しそうなツラかと思ったら、まさかあんな顔もするとは…
銀時の言った言葉が脳裏に蘇る。
不本意だが、そうだな…
笑顔なんざ誰でもする。いつでも拝めるもんだ。珍しくもねェ
でも、今コイツのを見ただけで……
この感じ…覚えがある。まるであん時の
考えれば考えるほど…
ずっと座っていた雅がよいしょと腰を上げた。
「そろそろ、患者の容態を看る時間だから…」
「あ、あぁ…そうか」
もうそんな時間か。話に夢中になって気付かなかった。
雅は部屋を出るので別の場所に移動してほしいと頼んだ。
パタン
2人は部屋から出た。
雅は保冷剤を包んだ布を渡した。
「これ、アイシングに。10分目安で患部にあてて冷やして。ずっとつけてると軽い凍傷になりえるから」
「ああ」
「じゃあ大事に」
雅はスタスタと去っていった。
しばらくすると、黒子野がキョロキョロしながら来た。
(あ!いた)
「高杉さん。さっき桂さんたちが捜してましたよ」
高杉は反応せず、ただぼーっとしていた。
「高杉さん?」
「………分かった」
伝言だけ伝え、高杉を通り過ぎた。
その時黒子野はふと疑問に思った。
(高杉さん。そんなにお酒飲んでいたのでしょうか?)
黒子野はどこかに行き、人の気配がなくなったのを確認した。
高杉は若干頬を赤らめ、思い詰めたような顔で壁により掛かった。