第5章 人は皆 十人十色
私は煙管をふかしながら、郷愁に浸った。
(別に、独りが嫌なんて思ってなかった)
嘘じゃない。それが、私にとって
・・
普通だったから
でもそんな孤独だった毎日で、アイツは私の前に何の前触れもなくひょっこり現れた。
そしてアイツのおかげなのか、不思議と周りとの交流が増えた。
晋助との試合のあとに何人かに申し込まれたり、遊びにも誘われた。
特にあの夏の頃が一番記憶に残っている。
それに、恐らく私と高杉は互いに苦手意識を持っていた。
私は高杉のことが苦手だった。
男は競争心が強いとはよく知ってるけど、ああいうすぐ熱くなるタイプはあまり好きじゃなかった。
(なのに今は…)
自分の部屋に入れては、“仲が良い”と言われる始末。
(何でだろうな…)
私は別に、特定の1人にこだわったりはしないのだが…
「何見てんだ?」
高杉が私の目線に気付いた。
「……いや」
煙管をしまい、すぐそばの窓の外を眺めた。
「さっきも外見てたな。何かあんのか?」
「見れば分かる」
俺は立ち上がって、雅と一緒に窓の外を見上げた。そこには
「!」
大きくて立派な桜の木が1本あった。
「桜?こんなとこにあったのか」
「私の部屋からは見えるんだ。もうすぐ初夏だから、だんだんと散っているが」
確かに、風が吹く度 桜の花びらが綺麗に舞い上がった
その光景は、酒でも飲みたくなるくらい綺麗で見事な夜桜だ。
「綺麗なもんだな」
俺も昔から桜は好きだった。松下村塾の近くに咲いてたからでもある。
ふと隣の雅がどんな顔をしているか気になった。
実際に見てみたら、声が出なくなった。
横から見た奴の表情は、いつものきりっとした硬い表情に強い瞳ではなかった。
窓の縁に頬をつき、桜に夢中になってるのか。まるで、昔のことを懐かしむような優しい表情だった。
(コイツ……)
そんな顔も出来たのか?