第5章 人は皆 十人十色
「大勢といて悪い気はしなかったんだよな?だったら、もう独りになるな」
生意気なガキんちょが他人の首に突っ込んだ。
「……どうしてアンタ、そこまで」
さっきから命令形だけど…
自分に関わらなくて好都合な奴だと思っていたのに…
私が何をしようとも、アンタには関係ない
独りだとしても、そんなの私の勝手だ
そもそも私は、ずっと独りだ…
「言っただろ?俺は“てめーが気に食わねェ”って。あんなツラもう見たくねェんだ。だから独りになるんじゃねー」
別に、アンタの都合なんか知らない…
「それにおめェ、勝つことに興味ないんだろ。なら俺がいろいろ教えてやるよ。本気のてめェと試合しなきゃ意味ねーし。お前の退屈しのぎに付き合ってやるってんだ」
この時、雅は悟った。
自分のことを試合の相手としてで、本当は私のことはどうでもいいと思っている。前と同様
ツラを見たくない。本気で戦いたい
自分のメリットだけで、結局は自分の都合しか考えない
好きで私に関わるはずが…
「それに、お前と試合してる時ァ 不思議と悪い気がしねェしな」
「!」
悪い気がしない?
それが、アンタの本心なの?
「…アンタ、私といて楽しいの?」
楽しい?いや、そんなんじゃねー
「ただの退屈しのぎだよ」
素直になれないツンな高杉は、オブラートに包んだ。
そっぽ向いてから、また目を合わせた。
「お前も、つまんなくはなかっただろ?」
その顔は、試合してるときと同じ 楽しそうな顔だった。
その軽い笑みに嘘はない
「……」
雅もそっぽ向いた。
つまんなくなかった。確かにそうだ…
けど、勝ち負けはどうでもいい。なのに…
この短時間で、雅の中の何かが変化した。
〈現在〉
あの真夏の日から…
私と晋助は試合する仲になった
最初は気乗りしなかったけど、次第に本気でやるようになった
松陽先生に「それが礼儀だ」と教わったから
周りと打ち解け始めたのはその頃からだ
晋助との試合がきっかけで、周りの人が私に話しかけてきた
剣の稽古でも、普段の授業でも
独りが当たり前だった私の日常は変わった
“誰かといて楽しい”なんて、少なくとも、“あの頃の私”にそんなものはなかった…