第5章 人は皆 十人十色
静寂に包まれると、そわそわしてきた。
(試合に集中してたから気付かなかったが、2人になるのはどーもな…)
そもそもの原因は昨夜、コイツの泣き顔を見ちまったことだ
もし見てなかったら、こんなことにならず、ましては勝負を挑むこともなかった
(あ~クソッ。言うことが思いつかねェ)
気まずい。だいたい女とこんな関わるのは初めてで…
「アンタ、悔しくないの?」
向こうから話しかけてきた。しかも返答を求めてきて。
「負けて、心残りじゃないの?」
んなわけあるか
「むしろ、希望通りの試合ができて、退屈しのぎにァ十分だったぜ」
それにそんなん…とっくのとうに
『勝者が得るのは 自己満足と慢心位なものです。
“敗者"(きみ)はそんなものより意義のあるものを勝ち得たんですよ。
恥じることはありません』
高杉が松陽に教わった“敗者の得るもの”
初めて学んだことの一つでもある
「勝ちにこだわらねェのは、何かわけでもあんのか?」
今度は高杉から質問した。
そんな道理があったとしても、俺には到底理解できねェがな
「……」
雅は顔も合わせず答えた。
「アンタ前、よく道場破りに来たよね」
「……」
「アンタが初めて銀時に勝った時、とても嬉しそうな顔してた。でも私には
・・・・・
それがない」
いつもの俺だったら、「ハァ?どういうことだ?」と口を挟んでたが、黙って聞いた。
「勝利とか優越感に興味もない私が 相手を追い込むくらいなら、勝ちを譲った方がいい」
勝っても負けても何とも思わねェ?
まさに、高杉には理解出来なかった。
(こんな奴を理解するなんざ、先生もどうかしてるぜ)
放っておくことも出来やしねェな…
「てめェ、“人といると不安になる”なんて言ってたな?さっきもそうなのか?」
「大勢は好きじゃない。ただ…」
雅はようやく高杉に顔を合わせた。
「悪い気はしなかったよ」
(!)
ソイツは鋭い目つきでも険しい顔でもなかった。
その顔は、不安が消し去り、穏やかな安堵の顔だった。
「……」
高杉はある決心をした。
「理由は知らねェが、お前のあのツラを思い出すと俺には胸くそ悪ィんだ…
だから、俺がまたてめェと試合してやらァ。そうすりゃ、もう泣かずに済むだろ?」