第19章 友が為
明け方。
元寺院である拠点からやや離れた場所に、鍛錬場が存在している。
志士の中でも、戦場で本領を発揮するために稽古場として使う者たちも数多くいた。
ここ数日、蠱毒による脅威や仲間が感染で倒れていくパンデミックの事態。
そんな状況下で、鍛錬をする向上心のある者など居なかった。
ただ1人を除けば。
「ハァ……ハァ…」
いつにも増して、死神のような鋭い目つきで、雅は剣術の自主練をしていた。
白い道着で、左手には黒い手甲を付けて、汗を流していた。
左利きで得意の型の技を意識して、相手の死角に付け入るような鋭い刀捌きを見せる。
竹刀はまるで真剣のような禍々しさを帯びている。
相手は決まって右利きで、その刀身をぶれさせるような巧みな早業をすれば、急所を狙うことなど訳ない。
しかしそれは、
・・・・・・・・・・・
ただの人間相手であればの話だ。
(ハァ…ハァ……ッ!ッ!)
素振りをひたすら繰り返し、200回目の最後の一振りをこなし、深い息を吐き出す。
竹刀を下ろして、襟元で頬を伝う汗を拭う。
やり終わったその顔は達成感には程遠く、一層苦々しくどこか悲しそうな表情をしていた。
そして雅の鍛錬は、強くなるためというよりかは、どこかやるせない気持ちをぶつけるための八つ当たりに近いようなものだった。
大切な仲間を救えなかった自分の弱さへの当てつけ。
守るべき唯一無二の友を守り切れなかった自分への戒め。
そして、これから成すことへの、覚悟の清算。
(……危険だが、やるしかない。"アレ"を使うしか)
「よォ」
「!」
雅はらしくもなく、人の気配に気付けないほど、焦りと動揺を胸に秘めていた。
そしてその姿は、完全に見透かされていた。
「お取り込み中に失礼するぜ。覗くつもりは無かったんだがな」
稽古場の出入り口付近で、壁に寄りかかって余裕そうな表情でこちらを眺めている。
「晋助」
竹刀を持っている手を無意識に強めてしまう。
自分の弱気な心を抑え込もうと、見せまいとする。
「感情が昂っちまうと、剣も鈍っちまう。お前もそういう時があるんだな」
「……生憎、医術の方が専門でね」
雅はらしくもなく、弱気を吐いてしまった。
心を許してしまう相手には特に。だが、だからこそ……