第5章 人は皆 十人十色
いや違う。俺はただ、気に食わねェだけだ
コイツが何かしたって訳じゃねェ。むしろ誰とも関わらず ずっと独り
そんなん俺には知ったことか。なのに…
(アイツが何もしてねェのが、気に食わねェ)
その姿を見るだけで腹の虫が収まらねェ。その矛盾が、さらに俺をイラつかせるんだ
(いや、集中しろ)
目の前にいるのは同じ奴でもいつものアイツじゃねェ
今の俺の敵だ
前は初対面で知らなかったが今なら分かる
相手を知ってるか否で、試合は大きく変わる
蝉の音も聞こえなくなるくらい集中した。
切羽詰まる空気の中、試合は始まった。
お互い相手に注意し、適度な距離を保ちつつ隙を作ろうと少しずつ攻めに入る。
(やっぱりコイツ…!)
左利きだ!左利き相手は、右利きにとって至難だ
あん時、初めて試合した時も驚いた。まさか本当にいたとは
(だがそんなもん。向こうが女のハンデに比べりゃ、むしろ足りねェくらいだ)
何でも強気で弱気を見せない高杉。
一呼吸してから、一喝して攻めてきた。
ガシャン!!
両者互角で、竹刀を交えた。
「ッ……」
「ッ……」
お互い譲る気もなく、退かない。
竹刀を握り締め、一瞬の気も緩めない。
(コイツ……)
前やった時と違う
目が前より鋭さが増してる
コイツァ、
本気で俺から勝ちを取るつもりだ
いつも 少しの感情も露わにしないのに、今はまるで…
(……本気だ)
力の押しでは微かにコイツの方が上だ
その時点で以前のように手加減するつもりもないのは分かった
しかし、そんな考え事をするほど、余裕じゃなかった。
雅は高杉の竹刀を弾き、一瞬の隙を狙った。
高杉も危うく一本取られそうなところを、体勢を立て直して何とか防いだ。
(あ、危ねェ…)
後ろに下がり、また距離をとった。
(俺ァ元々、銀時にも コイツにも手加減はしねェつもりだ!)
試合はしばらく長く続いた。
以前と竹刀の音やキレが違う
道場ががら空きのせいか?
いや、もう分かってる
今ここにいるのァ、互いに目も合わせず 存在すら見ようとしないただの同門じゃねェ
授業中にも抜け出し、てめーのプライドのためにぶつかり合う悪ガキ共
高杉はつい、フッと笑みをこぼした。
剣を交える、ただの一匹狼だ