第19章 友が為
言わずもがな、聞き覚えのあるその声なら、振り返らずとも誰なのか分かる。
「随分熱心にやっているところ失礼するぜ。3日ぶりか」
「……晋助」
雅は振り返って見上げる。
もしここが戦場なら、とっくに背後を突かれて、一回は死んでいた距離だった。
雅はここしばらく、自室に篭って薬品と死体ばかり相手をしてきたため、生きた人に会うのは久しぶりだった。
気配をうまく察知できなかったのは、そのせいでもあった。
「……ありがと」
雅はいつものような愛想の無い拙いその厚意を受け取り、首筋の汗を拭う。
心なしか顔色もあまり良く無い。
「……文字通りお疲れ様ってところだな。ここ数日、働き詰めン中、鞭打つように稽古とァ」
「……あいにく、アンタらと違って"本職"じゃないんでね。剣握ってなきゃ、すぐに鈍る」
雅は手拭い持っていない方の右手で竹刀を上げて見せる。
「それに煮詰まっている時こそ、違うことして脳疲れを"デトックス"(解毒)すべきだ。研究や事務作業ばかりなら、たまに体を動かさないと」
※夢主が社会人経験を得て身につけた知識である。
「"解毒"ねェ…」
高杉は含みを持たせたような言い方をする。
雅は一通り汗を拭き終わった。
「で、何しに来たの?まさか、私に親切するためだけに、わざわざ手拭いを取りに戻ったのか?」
「俺ァそんな優しさの欠片もねェ薄情な奴かい?」
「時と場合による」
「いや否定しろよ」
フッ
雅は思わず表情を緩める。
「ああ。私はあんたと違って、根っからの薄情者だからな…」
「!」
その笑みには、どこか悲しげな色を帯びていて、高杉はその儚げな表情に釘付けになった。
何より、雅がそうやって自分を卑下する時は決まってる。
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救いたかった仲間を、救えなかった時だ。
「……大丈夫か?」
「……銀が、大丈夫じゃないんだ」
グッ
雅は自分が持っている竹刀を再び握りしめる。
スッ
顔を伏せて、表情を悟られまいと、背を向ける。
まるで、"あの時の夜"と同じような立ち位置になった。
違うのは、今は互いの姿がはっきり分かる明け方だというところだ。