第19章 友が為
「……雅は」
「!」
桂の言葉で、高杉の意識が現実に戻される。
「己の両親が幕府の逆賊と見なされ、その中で無理が祟ったのか、元々病弱だった母親殿は亡くなった。そういうことだろう」
「……あ、ああ」
母親は病弱で死んだ。確かに雅からはそう言われた。
「そして気になるのが、妻と子供を置いた行方知れずの親父殿だ……だがいずれにせよ、雅が先生の娘とは、やはり考えにくい話だ」
雅は母親と死別し、独りになり、行く宛もなく彷徨っていたところで、銀時と松陽先生に出会った。
やはり父親のわけがない。
「顔が似ているからだと、そんな見かけの理由で、勝手がましい憶測を立てるのは滑稽であろう。雅や松陽先生に申し訳が立たん」
「……ああ、そうだな」
桂は真面目な時は真面目で、冷静に物事を見てくれるため、時にそれが救いになる。
高杉もこの話はここでおしまいにしようと決めた。
「そして高杉。一つ訂正しておく。俺が「坂本の言うことに同調する」と言ったのは、アイツの表情のことではあるが、先生の話ではない」
「?」
「アイツが笑顔を見せる先には、お前がいるという話だ」
「!」
時間は完全に夜になり、奥の広間では、隊士達が休息を取っている気配がある。
桂は周りに人がいないのを一瞥して確認し、腕を組んで背中から壁に寄りかかる。
「お前とは、松下村塾に入る前から続く仲だ。お前が雅を気にかけているのはよく分かる」
高杉は銀時のことになると、負けず嫌いなガキのように突っかかるが、雅のこととなると、まるで違う。
獣のような野心家から、それはまるでただの……
(……いや、それ以上はよそう。なぜならここは、戦場なのだからな)
桂はとっくに
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高杉の気持ちを分かっていたが、頭の隅にしまっておいた。
代わりに、第三者だからこそ分かる雅の様子を、正直に言う。
「そしてアイツもまた、お前の不器用なりの優しさや気遣いをよく知っている。だからこそ、お前にああいう優しい表情を見せるのだ。不器用ながらだがな」
そういうところは、似た者同士なのだ。