第19章 友が為
「……」
高杉は少し考える。
ヅラには確かに、この軍を今まで率いただけあり、人の心の芯に問いかけるような、強い言動力がある。
銀時や辰馬のように下心があるような性格でもない。
それに、雅が本当に、子供のような駄々を捨てて、大人になったというのであれば……
(……悪く思うなよ。雅)
約束破った罰が何だろうと、俺ァ、お前のこの先の為になる方を選んでやる。
お前を、松下村塾の頃にみてーに、もう孤独にはさせねェよ。
高杉は治療室の方向を一瞥して、桂へ向き直る。
「……アイツの母親は、幕府中枢を担う名家の生まれだったと、奴は言っていた__」
高杉が知ることは全て桂に話した。
将来が約束された人生の中で、1人の男に愛を誓った。
要するに、駆け落ちだった。
幕府の安定した生活の中に入り込んだ無法者。それが後に父親となる男だった。
そして両親共々、幕府とお家の顔に泥を塗った罪人として、その身を追われる運命になった。
そんな不幸せがあったからこそ、一つの生命が産声を上げた。
それが、雅だった。
一通り話を終え、桂も高杉も黙り込んだ。
(アイツに聞いたら確かに言ったな。母親が好きだと…)
実際そこに何があったかは聞いてねェ。
いや、アイツ自身ですら分からねェはずだ。自分の出生を、分かる奴なんかいやしねェ。
(どんな経緯であれ、アイツが幕府を憎む理由が分からァ。両親共々、国の法に縛られて、お尋ね者にされるなんざ……)
ドクンッ!
「!」
高杉はハッと思い出す。
あれはまさに、さっき通った山道を同じ場所で起きた。
以前、奈落の奇襲を受けた時に、雅と共に対峙した時だ。
雅は確かに言った。
『……だったらアンタらは、国が立てたその下らない法などにすがりながら、何人の無関係の人の屍を食らってきた?』
『一緒にするな。人殺し』
幕府下で暗殺を企てる奈落。ソイツらに向けて言い放った雅の顔。
見たことないくらい、怒りを抱えていた。
(アイツの言う"殺された人間"ってのァ…まさか……)
高杉は悍ましい想像を頭の中で描いて、冷や汗をかく。