第19章 友が為
「……もう、見られる心配はねえだろうな」
一言呟いてから、背中を屈めると、雅自ら高杉の背中にそっと身を任せる。
高杉は背負い直して、ゆっくり立ち上がる。
「すまない…アンタにこんなこと頼んで……」
背中越しでぐったりしているのがよく分かる。
銀時を庇いながら奥地からずっとここまで走って戦ってきたんだ。
負傷者の治療に加えて、その疲労は半端ないものだろう。
「……謝るくれェなら、できる限りは、もうちっと頼ってくれてもいいんじゃねェか?」
「え?」
高杉はすでに歩いており、皆とは全く別の方向へ前進していた。
背中にいる雅に負担をかけないよう、歩く度にかかる衝動は優しく意識する。
「てめェは人の苦しみや死を、人一倍敏感で分かるから、そうやって治療だけに飽き足らず、戦でも、何もかも全て完璧にこなそうとするんだ。こうなって当然じゃねーか」
「……」
高杉のその言葉には、相手を威圧させて説教するような嫌さは、決して含まれていない。
雅のことを、本気で心から心配して、文字通り今のように、彼女を支えたいという思いやりがあった。
雅自身、そんな高杉の優しさを心の奥底からじわじわと感じ取っていた。
(もし、銀時のそばにいたのな、私じゃなくて晋助だったら、銀時は無事だったのかな……)
晋助の言う通り、私は元々、医療が専門だ。
剣の腕は、その名の通り付け焼き刃みたいなものだ。
松陽の弟子になった時から心得たに過ぎないから、ずっと小さい頃から持っていた"コイツら"(銀時と晋助)に、敵う気がしない。
(銀時の背中を預けられるのは、桂や坂本、そして晋助であって、私ではなかった……)
自分の力を過信して、思い上がってたのかな…
雅は自分の胸元をギュッと握りしめて、今にも涙が落ちそうな目を伏せる。
銀時だけは、どうしても守り切りたかった。
親も同然の"師匠”(松陽)と離れ離れにされて、人前では見せないけど、誰よりもあの人を救いたいと願って、戦っている。
アイツを見ていると、昔の自分がチラついてしょうがないんだ。
10年前、母親を殺された時と同じような、あんな辛い思いさせるのはごめんなんだ。
なのに……
(また、私は……)